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テーマ:本日の1冊(3684)
カテゴリ:読書フィクション(12~)
「昨日がなければ明日もない」宮部みゆき 文藝春秋社 杉村さんは犯罪を呼び込んでしまう「体質」を逆用して探偵業を始めた。杉村さんの願いは、「相談」が「犯罪」になってしまう前に食い止めることだ。その点で、杉村さんは正しく、杉村さんほどに適する人はいない。 と、私は思っていた。 「絶対零度」は、まだ慰められる部分がないわけでもない。蛎殻オフィスの所長からも、杉村さんが「もっと早くに介入できていたらと後悔が多いです」と愚痴をこぼしたことに「それは無理です。全世界を1人で背負おうとするようなものだ」と評価する。「それもそうですかね」と杉村さんも自分で自分を慰めた。 もう一つの(短編はあと2つだけど、そのうちのひとつ)事件に関しては、杉村さんは「私立探偵の形をした石になって、私はただ立ちすくんでいた」と終わる。いろんな意味で、杉村さんは深く後悔することと思う。 でもね、杉村さん。 人の心は、ましてや犯罪という結果に至るまでの心の闇は、日常からダダ漏れになるタイプの小人と、私たちを含め日常はなんとかやり過ごし普通ならば人生を大過無く過ごすけど小さな人物よりもはるかに広い池にかなり大物を、黒も白も飼っているタイプの人と、あるものだと私は思います。作家の宮部みゆきさんは、ずっとそんな様々な人の闇を描いてきました。その闇は、時には時空を超える物語にさえなりました。石になる必要はありません、大丈夫ですよ。やっていけます。がんばれ。 ひとつ気になるのは、中学1年生の漣(さざなみ)さんの明日だ。悪い条件ばかりが彼女の上にはある。けれども、人は変わり得る、良くも悪くも。いつか、その顛末を物語の中に紡いで欲しい、宮部みゆきさん。 でももうひとつ気になるのは、杉村さんの物語が未だに2012年の5月に留まっていること。杉村さんの愛娘桃子ちゃんは、この時点で11歳である可能性が高いので今は19歳になっているはずだ。人生の岐路に立っているだろうか。その間、杉村さんは桃子ちゃんのために自分の命を顧みずに飛び込まないとも限らない大事件が、必ず起きるだろうと私は予測する。その時は短編ではなくて大長編になるだろうけれども、杉村さんの超人的な人の良さと洞察力は、その時のためにもう少し磨いて欲しい。私としてはきっと出てくるそのパートのために、あともう2〜3冊は欲しい。というのはファンのわがままかな。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2019年09月28日 11時37分17秒
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