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テーマ:本日の1冊(3685)
カテゴリ:読書(ノンフィクション12~)
「鏝絵」藤田洋三 小学館 昔、わけあって1年間ほど左官の修行をしたことがある。その経験をもとに言わせていただくと、鏝絵(こてえ)は、1年間修行したくらいで造れるものではない。西洋のレリーフとは根本的に違う。ノミで彫って後はサンドペーパーで均せばOKというような代物ではなく、日に日に状態が違う漆喰をさまざまな鏝(こて)で、神業のように塗りつけて、形を作ってゆくのである。当然、100年経っても壁と一体になっていなくてはならない。粘土のようにこねくり回して作るのではなく、凡ゆる工程は鏝(こて)を使い、何度も何度も塗り重ねて最後は仕上げ鏝で塗り重ねた跡が残らないように自然な曲線を描くように仕上げなくてはならない。わたしは全然出来なかった。鏝絵ではなく、基本中の基本、ナマコ壁(白壁の町を構成する格子柄の白い盛り上がった漆喰)を作る時に、どうしても曲線が歪になり、鏝の跡がついてしまうのである。歪になってもいいじゃないか?バカなこと言うんじゃない。実際ホンモノを見ればわかるように、みんな機械で作ったように全部均等で少しでも歪ならば直ぐにわかる。しかも決して機械では作れない。跡なんてペーパーで削れば?バカなこと言うんじゃない。艶が出ないし、近づいて見れば誰でも直ぐにわかる。私は不器用だったので簡単なナマコ壁さえ仕上げることができないのである。七福神や竜の形をあんなに綺麗に仕上げるなんて、ましてや、見本がなくて独創で絵を仕上げるなんて、「神業」以外の何者でもないだろう。 藤田洋三さんは、鏝絵に魅せられて、全国の鏝絵を写真に収めた。岡山市の有名な仙女鏝絵が無いことからもわかるように、その多くは網羅されてはいないが貴重な情報である。しかし残念ながら藤田氏は鏝絵を「消えゆく左官職人の技」であることを前提に書いていて、鏝絵がどのように描かれ、「世界美術」の中で、どのような意義があるのか、ほとんど言及しない。大いに片手落ちだと思う。こんなビジュアル本の任務では無いと言えばそうなのかもしれないが、なんか無駄な文章が多すぎた気がした。 私としては、名人が鏝絵をつくる過程を見たかったし、左官の雑誌編集長の方が指摘していた、「雪国で左官の仕事ができない3ヶ月の仕事」として描いたり、「長い左官の仕事の最後のサービスとして描いた」という部分をもっと膨らませて欲しかった。 名人長八の美術館は一度は行きたいとは思うが、鏝絵の本当の味は、民衆美術として無名の人の想いが出るところにあり、そこを大判の写真で紹介して、詳しい解説で深めて欲しかった。詳しい場所も分からなくて、この本片手に訪ねようもない。 それでも、鏝絵に特化した本は貴重であり面白かった。教えてくださったmyjstyleさんに感謝。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2020年09月17日 07時35分19秒
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