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橋本 治「知性の転覆」(朝日新書)
今、生きている社会に 「なんか釈然としねーな」 という人は、実は、たくさんいると思う。ぼくもそうだけれど、まあ、そっぽを向いていればいいかというのが実感だ。そういう人には、ちょっと胸のすく一冊かもしれない。 橋本治を読みなれているひとなら、そこは当たり前というかもしれない。独特のウネウネと増殖する語り口が、実にいい。 当然のことながら本書のテーマである「反知性主義」を語り始める。 「自分は反知性主義者か?」と自問して、「そうじゃないだろう」と思う。私は反知性主義が下品で嫌いだが、しかし私の中には「知性なんか嘘臭ェ」と思う気持ちも歴然とある。 いきなり、こういう調子、まあ、いつものことだけど。いったいどこに着地するつもりなのですかね。読みながら、妙にニヤついてしまう。いつもの橋本治だ。 私にとって「ヤンキー」とは「経験値だけで物事を判断する人たち」である。この「ヤンキー」に対するものは、「経験値を用いずに、すべてを知識だけでジャッジする人」で「経験値を用いる」ということをしないのはそもそも「経験値」に値するようなものを持ち合わせていないからなのか、あるいは「自分の経験値」を知識に変換する習慣を持たないのか、どちらかだろう。 とりあえず、「ヤンキー」とは何かを説明しながら、勢いに乗って、世間を「ヤンキー」と「大学出」の二つに分けてしまった。 「それって、みんなバカなんだってことじゃありませんか。そうなると「反知性主義」もへったくれもなくなっちゃいませんか?たしかに、まあ、なんというかその通りではあるんですけどね。」 なんて、読みながらひとりごとをつぶやいていると、やっぱり、という展開です。 マンガの配信サービスをする会社のCMコピーで、「難しい本読んでれば、マンガを読むよりエラいんですか?」というのがある。 これくらいの引用で十分だろう。 社会は閉塞している。経済の見通しも行き詰っている。その結果、「バカ」をそのまま肯定して「立派な消費者」を作り上げる。「バカ」でも金は使うのである。あらゆる局面で「経済がひとのバカさを促進する」エンジンになっている。 既成のマスコミであれ、ネット上であれ、そこをにぎわす政治はもちろんのこと、教育も、芸術も、何よりもそれを伝えるコミュニケーションの道具そのものが、しっぽをかむ蛇のようにこのエンジンを搭載している。 そうなると、ぼくたちが、今、出会っているのは、誰もが内的な反省の契機を失った「反省しない社会」であるということになる。それは「日本人は」でくくれる現象などではない。 しかし、彼は最後にこう言う。 それでも、「なんか釈然としねーな」と思う人間は、自分なりの真実を探そうとする。最早「知性」というものは、そういう試行錯誤からやり直すしかないところまで来ているんじゃないか。 「うん、まあ、知らん顔して、自分でやるしかないね。老い先は短いし(笑)」 というのがぼくの結論。皆さんはいかが?(S) 2018/06/19(画像は蔵書の写真です) 追記2020・02・16 政治家さんたちの様子を見ていると、橋本さんの言う「知性」とは、まあ、程遠い様子です。彼ら自身が「ヤンキー」でしかなかったことから抜け出す機会を、見つける能力そのものが、ハナから無かった印象ですね。 そういう人が「改革」とか、「対応」とかいうのって、どんな耳で聞いたらいいのか、困惑します。インフルエンザが拡がっていますが、収まりそうもないですね。 追記2022・02・02 昨日、「太陽の季節」を中学生のときに読んだ石原慎太郎という作家がなくなったニュースが流れた。田舎の中学の数学教員の書棚にあった本だった。それだけで、その当時(昭和30年代のはじめころ)、その書籍がどれくらい話題になったのか想像できる気がする。内容は、今思えば「反知性主義」の謳歌のようで、何がおもしろいのか、今でもそうだけれど当時もわからなかった。 彼が有名な俳優の兄で人気の(?)作家であるということで、全国1位の得票で国会議員になったのをみて「これはなんなんだ」と思った記憶がある。今思えば、たぶん「反知性主義」現象を目の当たりにした最初の経験だった。 本人が実際どうだったかは知らないが「反知性主義」という言葉が出て来たときに「ああ、あの人のことだな」と思った。そういう意味で亡くなったというニュースを感慨深く見てしまった(笑)。 そろいもそろって親の七光りという言葉を思い出してしまう子供たちの安物のタレントぶりを笑うのは偏見だと思うが、公共のメディが、ぼくよりも、ずっと若い政治家たちがヨイショとしか思えない言葉を撒き散らしているのは、ちょっと見るに堪えない気分になった。 実際、「反知性主義」がどんなふうにまき散らされていくのか目の当たりにさせられると「うん、まあ、知らん顔して」というのがなかなかむずかしいできごとだった。 「橋本治が生きていれば何というだろう?」 ふと、そう思ったが、たぶん知らん顔をするだろうなと思い直した。 にほんブログ村 ボタン押してね! お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2023.06.09 13:46:04
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