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カテゴリ:読書フィクション(12~)
「わが母の記」井上靖 講談社文庫 母の頭を毀れたレコード盤が回っているだけの場所のように考えていたが、そのほかに何か小さな扇風機のようなものでも回っていて、それが母にこの人生から不必要な夾雑物を次々に払い落させているかもしれないのである。(82p) 映画を見て興味を覚えたので、20年ぶりぐらいに井上靖を読んだ。小説のようなエッセイのようなこの連作を読んで、やっぱり井上靖は上手いなあ、と感心した。乾いた文章の中に隠しきれない叙情性がある。 映画では、樹木希林の演技に総てを負っているが、小説では、「頭の中の消しゴム」や「レコード盤」等の絶妙な比喩を使いながら、耄碌していく頭を見事に描いていて、私の読んだ中て一番説得力のある認知症小説になっていた。単に病状の描写が素晴らしいだけでなく、毀れた頭を理解することで、自分の母親の人生を理解するようにななる。 おばあちゃんの時のことを思い出した。 驚いたのは、映画では一番涙を搾った「あの場面」が、じつは映画的創作だった、ことである。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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