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カテゴリ:読書案内「日本語・教育」
小山鉄郎 「これが日本語」 (論創社)
高校一年生の国語の授業のなかで、古典の文章中に「御髪」と出てきて、どう読むのかという、読み仮名の問題がありますね。テストに出して「みぐし」とか「おぐし」とかを正解にするわけですが、出題する当人が、本当はよくわかっていないということがあるものです。 今やだれも使わなくなった大野晋の「岩波古語辞典」(1974年版)には「みぐし」も「おぐし」も出ていますが、手元にある、2008年重版の「全訳古語辞典」(旺文社)には「おぐし」の項目はありません。最近、生徒さんたちがよく使っているデジタル版はこっちですね。 解説は「髪の尊敬語」という内容で、両者に違いはありませんが、岩波版は《「御櫛」の意》という転用の語源を指示しているところはさすがです。最近の辞書には、もちろん、そんな記載はありません。 教員は、出題するときに、まあ、一応辞書を引いて確認します。 「御髪のいと長うこちたきを引きゆひて」とかいう例文では、髪の毛のことで、「東大寺の大仏の御髪落ち」とかだと、頭そのものだけど、読みは「みぐし」だ、というふうに。 じゃあ、ワープロだって「おぐし」でしか出てこない、そっちはどうなんだと気づく先生はまじめな方で、ふつうの方は教科書傍用の指導書とかでお茶を濁して終わりです。 さて、採点してテストを返していると、こんな声が聞こえてきます。 「なんで、『みぐし』でも『おぐし』でもいいのに『おかみ』はだめなの?」 「ワープロは『おぐし』なのに、辞書は『みぐし』って、どうして?ほんとは、どっちが正解なの?」 結構、突っ込み感にあふれています。もちろん、教員はここでたじろぐわけにいきません。 「そう読んだから!そうは読まないの!」 高校生という人たちは断定しても、たいてい、いや、かえってかな?納得してくれないようですね。 「江戸時代くらいから、ことばが大衆化して、『おぐし』が、まあ、口語化して今に至っているから、国語辞典に出てくるの。つまり、『おぐし』は平安時代ごろの古語じゃないということ。」 ほとんど言い逃れのように解説することになりますね。ここで済めば、一安心。 「エー、授業を始めますが、予習は大丈夫ですか?」 一気に攻勢に回って、逃げを打とうとすると、敵もさるものです。 「そもそも、なんで『御髪』と書いて『みぐし』とか読むわけ?『おかみ』やったら、なんであかんねん?」 こんなふうに、ツッコミが鋭くなってしまったりします。こうなると、本日の予定は丸つぶれということになるのですが、ほっておくわけにもいきません。 これが定期テスト直前で、教員も出題範囲到達にあせっている場合はこうなります。 「ちょっと急いでいるので、自分で調べてみなさい。」 伝家の宝刀「自分で調べろ」ですね。ただ、そういう場合には親切ごかして、こんな一言を付け加えます。 「あのね、小山鉄郎という人の『これが日本語』っていう本があるんだけどね、論創社っていう本屋さんね、図書館にあるかもね、あれ、一度読んでごらん。」 というわけで、ようやく、今回の案内本の登場というわけです。 長い前フリに付き合っていただいた皆様には、ここでは教員の現場での解答例(その一)を紹介しますね。これが、まあ、オーソドックスだと思います。 解答例(その一) もう少し突っ込んだ話になると、少々面倒ですが、ちょっと歴史が絡みます。解答例(その二)のパターンだとこうです。 解答例(その二) ちなみに、解答例(その三)になると、喋ってるノリの結果であって、脈絡も際限もなくなりますが、モノのついでなので書いてしまいましょう。 解答例(その三) もちろん、小山さんの本は、(その二)までの参考書。実は、小学生くらいの子供向けの装丁の、ことばの本なのですが、子供に読ませるには、ちょっと難しいかもしれない。高校生で、やっとかな、ぼくはそう思います。 大人が、トイレで読むのに最適。ちょっと分厚いので、バスに乗るときとかに持っているのは邪魔かもしれないですね。(S) 追記2022・05・04 今年であった学生さんに「こんな本あるよ」という紹介をしたくて、古い記事を修繕しました。白川静さんの入門書のつもりでもあるのですが、気づいてくれる人は、はたして、いるのでしょうか。 数年前に紹介したときは「職場の図書館で購入してもらいました!」とかの反応が、国語以外の教員の方からもあったりして、うれしかったのですが、まあ、読んでも読まなくてもいい本ですから、むずかしいですね(笑)。 追記2022・10・14
模擬授業とか、面接とか、あれこれおしゃべりしながらお手伝いしていた、教員採用試験にチャレンジしていた学生さんの朗報が届いて、もう一度、高校生や、大学生に本を薦める「読書案内」の原点に帰ろうかなと思いました。学校の教員の目線で本を読むという気持ちから遠ざかって数年経ちましたが、ここのところ、案内したいという意欲も失いつつある自分に焦っていました。もう一度、気を取り直して「さあ、もういっぺん!」始めようと思います。皆様よろしくお願いいたします。 追記 ボタン押してね! ボタン押してね! お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2024.03.14 23:46:02
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