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カテゴリ:映画 イタリアの監督
アリーチェ・ロルバケル「幸福なラザロ」シネ・リーブル神戸
朝から雨が降っている金曜日。 「出かけるの?」 「うん、雨が降ってるから。家にいると、ホントに何もしないから。」 「どこに行くの?」 「三宮。お昼に着くように高速バスに乗る。」 「何観るの?」 「ピーチ姫がいうてたやつ。幸福のなんとか。」 昼前のバスはすいていたのに、なぜか、隣に妙に派手なおばさんが座って、熱心にスマホをいじっていると思っていると寝てしまった。 三宮に着くと、さきほどの女性が階段をよろけながら、駆け降りるようにして、市民トイレに直行している後姿を見ていると、意味もなくため息が出た。 映画館は500人のホールで客は7人。振り向いて数えた。席について、またしても近所に知らない人がやってくるのではないかと心配していたが、今日は大丈夫。ホッとして、朝昼兼用のサンドイッチをかじっていると始まった。 暗い画面には建物があって、声がしている。 「ラザロー、ラザロ―」 村の風景、貧しい村人の生活、農作業、子どもたち、電球を取り合う夜、月が出ている。繰り返し「ラザロ」という呼び声が聞こえてくる。名前を呼ばれたらしい朴訥な青年が、頼まれたことを次々とこなしている。 イタリアなのだろうか、山岳地帯で、畑では煙草の葉の収穫をしているようだ。この感じをぼくは知っている。50年前の話だが、伯父がたばこ農家だった。 「あの、大きな葉を一枚づつ干すんや。」 そんなことを考えながら画面を見ていた。煙草畑の中でも、繰り返し「ラザロー、ラザロー、」と聞こえてくる。繰り返し聞こえてくる名前を聞きながら、思い浮かんできた。 「ひょっとして、あの、ラザロか?」 画面に、貴族の息子である青年タンクレディが登場し携帯電話をいじり始める。 「これは1980年代かな。」 暗い夜、村人がオオカミを見張り、裸電球を奪い合うように暮らしている山あいのこの村から遠くに電波塔の蜃気楼が見える。 「あっちには文明があるいうことか。」 母親に反抗する貴族の青年タンクレディと、あらゆる依頼を断らない朴訥な青年ラザロは狼の遠吠えを真似合うことで「兄弟」であることを確かめ合っているようだ。二人の遠吠えの声を村の人々は彼方に聞いている。 しかし、「あの、ラザロ」であるならと考えていると、案の定というか、やっぱりそう来るんですねとばかりに雨に打たれ、高熱を発したラザロが、翌日「兄弟」を探して山中をさまよい崖の上から、あっけなく落下する。とても生きていられそうにはない。 「やっぱり!それでどうなるんや。」 一頭の狼が、倒れているラザロのそばにやってくる。人間の遠吠えに答えた、あの狼たちの一頭であるに間違いないようだ。やがて、ラザロが目覚める。 目覚めたラザロは村に帰ってくる。村には誰もいない。街まで歩き続けたラザロは、盗みと詐欺でホームレス暮らしをしている女、少女だったはずのアントニアや、少年だった男たち、彼らが養っている村の老人、財産を失った「兄弟」タンクレディと再会する。いつの間にか30年の年月が流れている。 落ちぶれた「兄弟」を救おうと、いかにも現代的な、銀行の窓口にラザロはやってくる。「兄弟」が失ったものをすべて返してほしいと穏やかに訴えるラザロは、その場にいた群衆に踏みつぶされるようにして殺される。 一頭の狼が、自動車が行き交う道路を山に向かって走っていく。映画は狼の後ろ姿を追いながら、突如終わる。 映画を見ながら思い当たったのは、「新約聖書」の中にある、イエス以外で復活したラザロという名だったのだが、キリスト教圏の人たちならチラシを見ただけで思い浮かぶエピソードに違いない。 しかし、この映画は「ラザロの復活」という宗教的、神話的エピソードを描いたわけではなかった。ぼくの中に残ったのは、30年なのか、2000年なのか「元に戻してくれませんか」と問いかける勇気のようなものだった。 多分、ぼくが今考えていることにつながっている。もちろん時間を戻すことはできない。「が、しかし・・・」という感じを残した映画だった。 延々と連なるイタリアの山岳風景。その向うに見えてくる現代都市。「ラザロ」という呼び声や狼の遠吠えの声の重なりと響き。教会を追い出された貧しい村人に恩寵として聞こえてくる音楽。そして、「愚か者」と呼ぶしかないラザロ。こういう愚直で、まっすぐな映画を作った監督が、アリーチェ・ロルバケルという女性であったことも、ちょっと嬉しかった。 劇場を出ると雨は上がっていた。歩くと汗ばむ季節になってしまった。 「さあ、神戸駅まで歩こう」 監督 アリーチェ・ロルバケル Alice Rohrwacher 製作 カルロ・クレスト=ディナ ティツィアーナ・ソウダーニ アレクサンドラ・エノクシベール グレゴリー・ガヨス キャスト アドリアーノ・タルディオーロ(ラザロ) アニェーゼ・グラツィアーニ(アントニア) アルバ・ロルバケル(成長したアントニア) ルカ・チコバーニ(タンクレディ) トンマーゾ・ラーニョ(成長したタンクレディ ) 原題 「Lazzaro felice」 2018年 イタリア 127分 2019・06・07・シネリーブル神戸(no10) ボタン押してネ! にほんブログ村 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2023.08.03 21:52:57
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