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カテゴリ:加藤周一
加藤周一自選集(1(1937ー1954))より第二弾です。 加藤周一の「天皇制を論ず」は、戦後最も早い時期に現れた天皇制批判の文章である。掲載は東京大学内のある財団法人「大学新聞」1946年3月21号であった。「不合理主義の源泉 問題は天皇制であって天皇ではない」の表題のあとにこの題名がついている。筆名は荒井作之助。 話はずれるが、この東京「大学新聞」は戦前から現代までずっと刊行し続けられている、独立採算で会社組織になっているおそらく唯一の大学新聞である。私が作っていたような大学新聞とは中身も部数も影響力も違う。時代が下って、かつて映画「精神」の監督の想田和弘もここの編集長をしていたらしい。あまりもの激務に一時統合失調症にかかった。それで新聞社をやめたわけである。これが彼をして「精神」を撮らせた動機にもなっている。 その「大学新聞」に加藤周一は明確に断じる。 「天皇制は何故やめなければならないのか。理由は簡単である。天皇制は戦争の原因であったし、やめなければ、又戦争の原因となるかもしれないからである」 加藤は天皇制廃止の理由を述べた後に廃止反対論の無意味なことを示していく。非常に論理的な文章である。筆名荒井作之助。「(疎開先の)追分で世話になった農民の名前をそのまま筆名とした」らしい。実在した農民の名前を筆名としたのは、「虐げられてきた農民の立場で天皇制を論じたかったのだろう」と編者の鷲巣氏は言う。 支配者層は、降伏か抗戦かを考えたとき日本人民の命を考えたのではなく、ひとり天皇の地位についてのみ考えた。廃止すれば(天皇の地位の)混乱が起きるという意見に対し、加藤は「戦争を迎えるのは沈黙をもってし、天皇制の廃止を称うに混乱を以ってする者は恥を知れと云いたい」と書いた。穏やかで理性的な加藤の文章の70年の著作の中で、もっとも激烈な言葉がここに書かれている。 戦争に対する怒り、それが加藤周一の出発点だった。そしてそれは生涯変わらなかった。 今回初めて収録された、同じ筆名で書かれた「天皇制について」という文章がある。(「女性改造」1946年6月号)天皇制とは封建体制そのものである、とその根本を説明し、天皇制を支持する「国民感情」が根強くあることを認めながらも、この文章ではとくに女性たちに対して分かりやすく情熱的に訴える。 「面を起こそう」「あなた方を真に美しくするものは、理性と勇気、時と場合によっては屈せざる反抗の精神である」 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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