今日、何読んだ？

井上ひさしの読書眼鏡 中公文庫 / 井上ひさし 【文庫】
井上ひさし

　著者はかなり高度な本読みであった。
　そして、その蔵書量もはかりしれないのだった。
　出身地の山形県には氏の蔵書等の贈呈にかかる遅筆堂文庫が山形市と川西町にある。
　その膨大な読書量により深い知識と見識が編み出され、さらに読書の技術も高じた。
　このことは次のような文章を読むとわかる。

　大江健三郎さんの最新作「取り替え子（チェンジリング）」（講談社） がそうでした。
　冒頭の５行に途方もない仕掛けが用意されていて、そのままその場に釘づけ。
　その上文章は質が高いのに実に柔らかで、一語一語がこちらの体に染み込んでくるような気配、事件を伝える小説家の作業が次第に「祈り」そのものまでに高まっていき、やがてこれからの人間のための新しい信仰 というテーマが行間から美しく迸り始め、火の気のない所で心を熱くしながら3時間立ったまま一気に読んでしまいました。

　この文章の、途方もない仕掛け、とか、実に柔らか、などの表現からもその読書の読みの深さが汲み取れる。
　読書とはこういうかなとつくづく思ったことである。
　ひるがえって自分の蔵書量などほんのわずかである。
　それども自分では間に合うかなと思って自宅を新築した際、気持ちばかりの蔵書コーナーを造ったが、それでも結局足りなかった。
　三段にしても満杯である。
　ところで、私の蔵書の整理方法は著者を五十音順に並べるもので、もう一回並べ替えしなければならないなあと思っているが、なかなかその暇がない。
　もう少しで定年退職である。
　退職してからか、その前になるか分からないが、もう一度蔵書の並べ替えをしたいと思っている。