テーマ:フレンチ(281)
カテゴリ:大久保一彦の二つ星と三つ星の間
前半の続き
![]() ![]() ![]() ![]() ![]() 今回のメイン料理は2皿になりました。僕も、これを聞いてびっくりしました。肉料理を2皿って、簡単のようで難しい。ただ単にたくさん出せばお客様が喜ぶということはなく、普通なら2度目は飽きてしまうことが多いのです。 ところがどっこい、さすがわが師匠。完全に、お客様も僕もしてやられました。一つの食材でこれだけ多様に、バランスよく、最後の一口まで計算され美味しく食べれる料理があるのかと、僕は脱帽です。 今回使用された食材は、愛媛の雌のウリボウ。ミチノシェフが信頼しているところから運よく手に入れることができたそうです。1頭で20キロほど。ちょうどアニョードレくらいの大きさかな?? さて、一皿目からの紹介。 手前にトリュフがかかっているのが、もも肉の赤ワイン煮込み。赤ワイン煮込みをガストロノミーに仕上げるのはとても難しい。一歩間違えると、ビストロの赤ワイン煮込みになってしまう。何が違うのかって聞かれると、赤ワインの酸味の切れとコク、そしてそれ本来のうまみにフォンドヴォーやフォンブランを足すことにより、より奥行きのある味になります。 こうしてしっかりと酸のある赤ワイン、フォンドヴォー、フォンブランを入れると必然的に原価が上がる。そして最終的に、よりきれいな味の赤ワイン煮込みに仕上げることが、ガストロノミーの赤ワイン煮込みなのです。そんなクラシックな煮込みを、ミチノシェフは実に丁寧に仕上げてきました。 その煮込みの下には、トリュフの香るユリネのピューレ。これまた、やられました。僕は野菜のピューレに、しっかりと煮詰まったフォンブランなどの旨味があるものが大好きです。ただ、一般的なピューレは素材の味を第一に考えるらしく、僕にしては水っぽい。だから自分以外の野菜のピューレでおいしいと思うことがとても少ないです。ところがどっこい、ミチノシェフのユリネのピューレは、うまみがはっきりしている。あまりにもおいしくて、2回3回味見??しているとミチノシェフが 「敬三、その気持ちわかる。味見しだすとうまくて止まらんなるやろ」 その通りです。 次は、右上の料理。ウリボウの首や肩肉などのテリーヌ、サンドイッチ仕立て。 このテリーヌの説明の前に、僕がフランス料理をやり続けて18年になります。多いような少ないようなキャリアですが、そのうち12年はフランスで仕事しました。僕の大好きなシャルキュトリーの中で「フロマージュ・ド・テット」という豚の頭で作るテリーヌがあります。いろんなところでいつも食べますが、ミチノシェフが作る「フロマージュ・ド・テット」は後にも先にも、僕の中で一番おいしいものでした。ミチノシェフは、昔から奇抜な組み合わせでいろんな驚きがある料理を作られることで有名ですが、確実に言えることが一つあります。 「フランス料理の基礎が超一流だからこそ、奇抜な組み合わせを、本人の論理の元構成されています」 今回のこのテリーヌも同じです。 一見脂が多いように見えますが、ゼラチン質の部分やお肉の部分を絶妙に混ぜ込み、すべて細かくしないで大きいのがあったり小さいのがあったり。少し味見させていただいたとき、なんでもきれいに均等に仕事しがちなこういうテリーヌを、あえて大きさを変えるだけで、これだけ味、食感が変わるのだと勉強しました。 ミチノシェフは、それをバターで焼いたトーストでサンドイッチ。サンドイッチしたまま、温かい状態まで温めて提供するのです。これにも参りました。 そういえば、僕が高校の時、フロマージュ・ド・テットを少し温めて出していたことを思い出しました。その方が、香り、うまみ、脂やゼラチン質のとろとろ感がさらにうまみを呼んでくれます。 左に緑の野菜があるのは、菜の花の温かいサラダ。トリュフのヴィネグレット和え。 僕なら、絶対考えないし使わない食材でもある菜の花。なんとなく、すぐに日本料理っぽくなってしまい、難しいと思っていました。これも、ところがどっこいです。 お客様にはとても好評で、春らしい菜の花が箸休め的な存在で、あえて食感を残すように茹でられたので、その食感が口の中をリセットしてくれるみたいでした。アツアツの菜の花を置か上げして、そのままトリュフのヴィネグレットを和えると、トリュフの香りがさらに良くなり、 「僕もこういう野菜の使い方ができないといけないな」 って思う瞬間でした。 そして、一番奥にあるのが、ウリボウのばら肉のパルマンチエ。 なんと、3種類ウリボウの料理が並びますが、すべてフランス料理の基礎中の基礎。こういうのって、本当に腕に自信がないとできないことなんです。日本料理でいうお吸い物と、焼き魚と、白いご飯といったところでしょうか?みんなそれなりに作れるし、みんなそれなりに味を知っている。だからこそ、本当においしくないとお客様を喜ばせることができない。 そして、この料理も期待を裏切らないものでした。ばら肉は、フォンドヴォーなどと一緒に柔らかく煮こまれ、トリュフ風味のジャガイモのピューレ。僕ならロブションのようなバターたっぷりで作ってしまうところですが、ミチノシェフは作りながら 「敬三の重い料理食べた後のジャガイモやから、ここはオリーブオイルやな」 なんと、真っ向勝負に挑んでいる僕に気を遣う余裕。これまた、すごくおいしい。 まだ、一皿目の紹介ですが、何か僕たち若い料理人にメッセージを残すような料理です。 そして、基礎を卓越して基礎が基礎でなくなる。本当に素晴らしい技術を、僕は見ることも出来ました。 別に戦っているわけではありませんが、この一皿で僕の料理はきっとお客様の心から消えるほどの素晴らしい一皿でした。完敗です。この後、さらにすごい料理が出ます。 イノシシ料理に合わせたワインは、 1997年、コント・ラフォンのヴォルネイ・サントノー・デュ・ミリューのマグナム 1998年、アルマンルソーのシャンベルタン・クロ・ド・ベーズ 両方のワイン、本人から直接いただきました。個人用のストックでパーセルの一番いい畑のものです。去年まで、ドメーヌで熟成していましたから、状態は最高。 背肉のローストとエスプレッソコーヒーのソース、タンポポコーヒーの泡を添えて。 まず、この猪が素晴らしい。どんな素晴らしい料理人でも納得のいかない食材では美味しい料理が作れません。この猪は、素材そのものがまず素晴らしかった。 そして、ミチノシェフの魔法のような技術により、最高の料理に仕上がりました。 まずキュイッソン。あくまでも基本に忠実といいましょうか、でも仕事が当たり前のように進むので、すごく簡単そうに見えます。まずここがポイントですね。 一生懸命料理する方がいらっしゃいますが、それはまだプロになりきれていない。ミチノシェフくらいになると、すべての難しいと言われる仕事がいとも簡単に行われ、見ている側は「僕にもできそう」って思ってしまうほど、肩に力が全く入っていない身のこなし。 息切らしながら頑張っていますと言わんばかりの仕事を、本当にまるでその仕事を遊んでいるかのように、進んでいきます。これぞ、本物のプロフェッショナルと思いました。 ローストは、アセゾネしてセジールして、オーブンへ。たまに、思い出したかのように、状態を見て、いつの間にか外に出ていて、気付くとおいていた場所が変わったりします。ルポゼというお肉を休ませるとき、場所によって寒すぎたり暑すぎたりすると、最終的なキュイッソンに影響が出ます。そういうことも、僕とたわいもない会話をしながらも、いつもお肉のキュイッソンの状態は頭にあるのですね。すごいです。 骨のついたキャレとセルといわれる鞍下肉の2種類を、時間差でローストです。 ソースはエスプレッソのソース。蜂蜜とシェリービネガーでガストリック。本来胃液という意味ですが、糖分をキャラメリゼしてそこにヴィネガーを入れるクラシックな技法のひとつ。そこに、イノシシのジュ。(すでに仕込んでありましたので、詳しく説明できませんが、少し味を見ると、まるでイノシシを食べてる気持ちになりました)最後にエスプレッソコーヒーで仕上げます。 奥の鞍下肉のローストの上には、タンポポコーヒーの泡。 タンポポコーヒーとは、ノンカフェインで昔からフランスでは有名な飲み物。それを、泡にして香りを演出。 きっと詳しい理由があると思いますので、それはミチノシェフにお任せしましょう。 この料理も、試食させていただきました。感想は「美味しい」どう思いますかって聞かれると、「非常にクオリティーの高いフランス料理を頂くことができました」 ぼくは、フランス料理が大好きで、食べた瞬間にフランスを感じる料理が大好きです。ただ、最近少ない気がします。フランス料理の基本は、酸、塩、油脂、うまみの要素が必要だと思います。ミチノシェフの料理にはそれがありました。 そして、ソースの重要性も教えていただいた気がします。僕も、いろんなお客様、ジャーナリストにもう一度ソースを見直しましょう。ブイヨンを見直しましょうって訴えていますが、ミチノシェフの料理は、本当にそれを物語っていました。 今回のフェアで、ミチノシェフの一つ一つの細かな技術の中に、やっぱりすごいシェフという実感があったのと、やっぱりミチノシェフみたいな文化性が高い料理人がもっともっとフランス料理文化を伝え、伝承していくべきだと思いました。 現代フランス料理や、キュイジーヌ・モリキュレールもいいと思います。でも、日本の江戸前寿司のように、決して華やかでない盛り付けの中に本当の技術や文化が盛り込まれていると思います。そういう継承という仕事をミチノシェフにはまだまだ続けてもらいたいです。 「ミチノシェフ、年に一回毎年しましょうね。今年は惨敗に終わりましたが、来年さらにオタクになり、シェフのキャリアに負けない料理を作ります。短い時間一緒に仕事出来て本当に楽しかったです。また、よろしくお願いします」 ![]() ![]() ![]() Restaurant La FinS 東京都港区新橋4-9-1 電話 03-6721-5484 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2018.02.12 18:00:27
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