カテゴリ:鮨行天
『鮨行天』はシャリを二度炊く
『行天』では雲井窯の中川一辺陶氏の飯鍋を使ってご飯を炊いている。 中川一辺陶氏のご飯鍋は保温力が高く、吹きこぼれたタイミングで火を止めても炊き上がってしまうすばらしい“土鍋”だ。 その中川一辺陶氏の飯鍋を『行天』では、一年ねかせて、焼きを入れて底にひび割れをさせてある。そうするとひび割れた飯鍋からミネラル分が出て米の味わいに深みを出すと行天は言う。 ただ、そんな使い方をするからすぐ底が抜ける。 だから『行天』には常に10個以上飯鍋のストックがあるそうだ。 この飯鍋はで、炊き上がったご飯を大きな飯台の半分に広げて、合わせ酢を入れ、シャリを切る。 切り立てのシャリは温度が高く、酢の香りも立っている。まだ、酢が米に浸透していないので、酢のあたりも強い。いわば、暴れた状態のシャリだ。 一見すると、扱いにくそうなシャリだが、クロマグロのすばらしい仕入とポテンシャルを引き出す仕事ができる『鮨行天』では、この状態のシャリがうまく機能する。 良質な天然のクロマグロは、他のマグロにない口の中にすばらしい香りと酸が広がり、余韻が持続する。これはシャリによって引き出さされるのだ。だから、『行天』では鮪を握りの最初に出す。 大衆的な寿司店では「お好み」というスタイルをとっていてお客様が自分の食べたいものを注文する。だから、ネタにあわせるシャリの状態を考えることはできない。せいぜい、人肌であるかをコントロールするだけだ。 一方、頂点の鮨屋はシャリの状態や変化にあわせてネタを考えて、流れをつくる。 切り立てのシャリは酢の角が立ちいわば暴れん坊の状態であるが、次第に酢の香りはあせ、シャリにも吸収され落ち着いていく。シャリの温度も下がる。 その落ち着いたシャリにあわせて、繊細なネタを合わせる。 あるいは、仕入れた魚からどこで、シャリにあわせるかを考えるのだ。 こういう事情もあり『行天』ではシャリを二度炊いている。 なぜ、シャリを二度炊くのかというと、もう一度、強いネタをあわせることができるからだ。それによって、オペラのように幕間を作ることができ、流れの面白みを作ることができる。 お好みで好きなネタを食べるのも楽しいが、鮨を流れで楽しむのは観劇のようなものだ。 こういう、食べものうまさにとどまらない楽しさがあるから、鮨は西洋人をも魅了するのだろう。 戦後の名鮨職人藤本茂蔵によって見いだされた高級店の鮨屋の「おまかせ」しかないというシステムは最高のネタとシャリの組み合わせの妙を求める故にある。 本日のおすすめ 雲井窯(くもいがま) 信楽焼陶製 飴釉二合炊御飯鍋おもてなしの器 ごはんを愉しむ 雲井窯(くもいがま)信楽焼 飴釉三合炊御飯鍋おもてなしの器 ごはんを愉しむ 雲井窯(くもいがま) 飴釉五合炊御飯鍋 熱陶器ごはんを愉しむ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2021.06.01 11:31:45
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