カテゴリ:経営者のための連続コラム
日経レストランの過去の連載を復刻します。
2004年11月号より うまい、安い、早いが見落としたもの 9月の末に定点観測をしているボストンに行った。 そのボストンのイタリア人街にひときわ人気のある店がある。 その店は、狭く、厨房丸出し、相席あたりまえ、一見客にはとても無愛想。でも、すぐ、お客様で溢れる。土日には行列する。 今回、チャールズリバーの反対側にあるケンブリッジの郊外にある飲食店や流通の店舗を視察したいということで、その方面に明るい日本人ドライバーを手配した。 で、イタリア人街にあるおいしいカプチーノを飲みに行こうということになり、朝、散策をすることになった。車を路上に停めるとき、「あっ、この店、昼なると行列するんですけどね・・・」とドライバーさんが呟いた。「なら行ってみよう!」とノリの良い私たちは、すぐランチの予約があるにも関わらず店に入った。 そして、その店に入ろうとして驚いた。まだ、11時前なのに、料理に集中する多くのお客様でいっぱいだ。 しかし、厨房むき出しのこの店、お世辞にも良い空間と言えない。 黒板に書いてあるメニューを見て、パスタの注文をした。 値段は決して安くない。パスタは14から17ドル前後だ。 結局、感動した私たちは翌日もこの店を訪れた。 「この店がこれからのヒントを与えてくれる!」 この店を利用して、「早い、うまい、安い」を代表とする普及の時代が終わろうとしていることを実感した。 飲食店はまさに、今、「何を売る」かが大切になっている。 汚い、古い店を大道具に 「何を売るか」というと「食べ物売るに決まっているじゃないか」って思う人が多いだろう。 その通り、マンガ喫茶以外は食べ物で値段を取っており、実質は食べ物を売っている。 しかし、内装を追及した店が増えた結果、場所代をいただいた方が良い店が多くなっているが現状だ。 さて、昔、流行っていた創作居酒屋で、今、大型店に押されて苦しんでいる店が結構多い。 この手の店は、装置さえ作ればいいわけだから、急速に店を広げられる。当然、すぐ競争が激化し、すぐ売上の伸び悩み状態に直面する。 よく、ものの本を見ると、視界から入る情報がおいしさの多くを決めると書いてある。 本当だろうか? ならば、内装が良くてきれいに盛り付けた料理を提供する店はおいしく感じるはずだ。 しかし、現実はそう簡単ではない! 私が指導していて思うことは、空間の良い店ほどお客様が値段を高く感じ、おいしくないと感じる矛盾に直面するということだ。 水商売からの脱却をはかりQSCの徹底でサービスによる差別化が通用した時代は確かに、店が汚いというと本当に汚い食事をするような場所でなかった。 当然、そう言った店は外食拡大期の1990年半ばには一掃された。 さて、今日、食べ物のおいしさを演出する大道具として、汚い、古い店を大いに利用できる時代となった。 ちょっと前までは資本力がある会社が強かったがまさに今、変わろうとしている。 味噌煮込みうどんの仕掛け 汚い店で、大切なことは価格帯を大手チェーンと同じにしないことだ。 安い価格をつけろということでもない。 そう、三割または五割以上高い価格をつけることが大切なのだ。 みなさんは名古屋の「山本屋本店」で味噌煮込みうどんを食べたことがあるだろうか? 名古屋コーチンの味噌煮込うどんは約二千円する。 うどん一杯、二千円である。 しかし、先日名古屋でメニューのお手伝いをしている友人(フランスではクライアントを友人という)と食事をしていて、改めてその販売のメカニズムのすばらしさに驚いた。 ポイントいくつか書いてみよう。 名物にふさわし価格設定 「食べるぞ!」と心にスイッチを入れさせるエプロン 老舗ぽさを感じさせる年配の女性だけの配置 食べ物に集中させる良すぎない内装 食べ物自体が目当てだと、食べ物への視線の集中度が高い。 つまり、内装が良すぎるのは逆効果になるのだ。 内装が良くなるにつれて、視点が、食べ物以外に散っていく。 内装が良すぎると食べ物にはほとんど目がいかない。 空間で時間を過ごすだけとなるのだ。 その場合、非日常の利用だと、よっぽどの空間であるか、人とのつながりがなければ、何年もの間、お客様をつなぎとめておけない。 それは飽きが必ず来るからだ。 まさに装置系飲食店は曲がり角に向かって進んでいる。 選択の飲食店 右肩上がりの普及の時代は終了した。 右肩上がりの時代、チェーンオペレーションというのは成果を出すのに非常に効率の良い方法だった。 しかし、市場の普及が終わった後、このチェーンオペレーションは利便性の提供以外、お客様に提供できない。 まずます、価格競争は激化するだろう。 そんな時に、強いのが個人店だ。 大手は、仮に二百人としても三百店舗あれば、一日に六万人集めなくてはならない。 これだけの客数を集めなくていけない以上、損益構造を変えたり、価格帯を変更したりすることはできない。 それに引き換え、小規模個人店は、自分の身丈にあった支持だけを受ければよい。価格は大手よりかなり高くても目に見えて違う経営ができるはずである。 個人からチェーン店が市場を奪ったのが、1970年から続いた普及時代とするならば、個人がチェーン店から市場を奪うのが選択の時代なのである。 そして、そのキーワードが、高い、汚い、うまい!なのである。 過去のコラムを収録した本です!! 【送料無料】小さな飲食店が成功するための30の教え お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2020.08.11 09:42:15
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