横溝正史シリーズ 犬神家の一族 最終回
安部譲二。横溝正史シリーズ 犬神家の一族 最終回湖に両足だけ突き出した遺体を引き揚げると背中に「スケキヨ」と書かれてあった。遺体のゴムマスクを外すと佐清の素顔が現れる。「スケキヨ」を逆さに読むと「ヨキケス」。三人合わせると斧(よき)・琴(こと)・菊(きく)となる。しかし、遺体の指紋は佐清とは別人のものだった。その頃、松子は珠世の前で能を舞っていた。そこに復員兵が現れマスクを外す。松子と珠世に別れを告げに来た佐清だった。しかし警察に捕まってしまう。古館と金田一耕助は警察署で佐清の取り調べに立ち会う。金田一はゴムマスクの男が青沼静馬で、佐清と時々入れ替わっていたのでは?と指摘する。しかしそうまでして何故殺人を犯さなければならなかったのか。金田一と古館は松子に佐清が逮捕されたことを報告する。そこに竹子夫婦、梅子夫婦、珠世がやって来る。金田一は珠世が佐武に襲われそうになった夜、実は現場に松子もいたのでは推理する。佐智の時も。逆ギレして退室する松子。金田一は松子に佐清が全て見ていたことを告げる。そして佐清は犬神家の人たちの前で涙ながらに詫びるが、金田一はそれさえも真犯人の庇いだてだと指摘する。「事実に基づいて真実をはっきりさせましょう」。松子が博多から連れ帰った男も、指紋を検証した際にいた男も青沼静馬だった。青沼静馬と佐清は時々入れ替わっていた。これは松子も騙されていた。佐清は青沼静馬に遅れて復員してきた時、新聞で犬神家の遺産相続をめぐる報道を知って驚いた。以後、佐清が続ける。自分に成り代わっている人物が青沼静馬だとすぐ気付き、母・松子と珠世が心配でその日に那須へ戻った。その際、顔を見られると不味いと思いマスクをした。そして青沼静馬と秘かに再会する。何故自分に成り済ましているのか?「犬神家は僕のものだ。貴様らに復讐すること、それだけを考えて内地に復員してきたんだ!」。佐清はゴムマスクに隠された青沼静馬の素顔を見る。そこへ偶然珠世と佐武が現れ、佐清と青沼静馬はその一部始終を見ることになる。その時、能面の女が現れ佐武を刺殺、懐中時計を奪った。能面の女は松子だった。青沼静馬は語る。「あれがお前のお袋、犬神松子の正体だ。俺は30年前に同じような目に遭っている。これがその時の傷だ!」。幼少時、松子に火箸で火傷を負わされた痕が肩に残っている。以来、佐清は母親の殺人を隠すために青沼静馬の命令通りに動いた。どんな残酷なことでも逆らえなかった。斧(よき)・琴(こと)・菊(きく)にかけて青沼親子の復讐を案じさせた。また先手を打つため指紋の照合にも応じた。その時、ゴムマスクを被っていたのは青沼静馬ではなく本物の佐清だった。佐智に拉致された珠世を助けたのも佐清だったが、佐智に素顔を見られてしまう。青沼静馬は佐智を消すように命令する。しかし佐智を殺したのは松子であり、またしても佐清は現場を目撃してしまう。琴の糸は青沼静馬の命令で後から巻きつけたものである。その後、佐清は那須から去ろうとするが青沼静馬が殺されたことを知り、松子の身代わりになることを思いつく。「戦争で顔に酷い傷を負ったと思った母は命がけで僕の幸せを手に入れようとしてくれた。こんなことならビルマで戦死すれば良かった。何のために僕は復員してきたのか・・・」。残るは青沼静馬の謎。そのことについて松子が語った。「青沼静馬の背のうの中から母親の菊乃の写真が出てきた時、父の佐兵衛が声を立てて笑っているような気がしました。その夜、静馬は自ら正体を明かした」。豪雨の中、激昂する青沼静馬。「どうする!犬神松子!俺の母親でいたければ土下座しろ!土下座して謝れば一生のこの屋敷に置いてやる!30年前俺のおふくろはあんた方姉妹に土下座して犬神佐兵衛と別れると誓ったんだ。今度はあんたが土下座する番だ!!さっさと土下座しろ。雨の中で這いつくばって、俺のお袋に許しを請うんだ!!」。土下座する松子。しかし隙をついて青沼静馬を斧で刺殺する。これで事件の全てが明らかになった。松子は佐清と珠世の行く末を案じるが「僕たちにそんなことを言う資格は無い」と佐清に否定される。しかし珠世は「待っています。三人で暮らせる日が来るまで」と松子を気遣う。松子が支度をしている間、佐清は青沼静馬の顔の傷のことについて語る。偶然同じ部隊に所属することになっただけでなく、双子のようによく似ていたことからお互いの素性を知る。二人で本部へ伝令に行った際、青沼静馬は負傷する。佐清は静馬を残して本部に向かうが本部は既に全滅、その後静馬と会うことはなかった。「あれきり貴様は戻ってこなかった。俺たちの守備隊は全滅し、俺は捕虜になってやっと助かったんだ」。佐清もやっとの思いで転々とし終戦を迎えたと説明するが「そりゃ何とでも言えるさ。水も食料も無くなり酷い熱にうなされながら、俺は待ってたんだ」。母親たちが犯した罪、重傷の青沼静馬を置き去りにした呵責、佐清は二つの重荷を背負っていた。そして松子は自らの命を絶つ。その後、署長、古館、金田一の三人は事件解決を祝して馬肉をたらふく食べる。金田一は那須駅で珠世を見かける。東京へ行って働くとのこと。「そうですか。頑張って下さいね」。珠世は今も佐清と松子への思いを抱いている。お・わ・りお腹いっぱい。映画版より密度が濃い。何よりも工藤栄一が大映とがっちり組んでミステリーに挑戦したことがすごい。しかもTBS系列版金田一耕助シリーズのトップバッターとして。その後、シリーズは中断を挟みながらも2005年まで続く。