必殺からくり人血風編 第11話「夜明けに散った紅い命」
悪党に人権はない。 ドゥテルテ大統領 必殺からくり人血風編 第11話「夜明けに散った紅い命」脚本を『傷だらけの天使』最終回を演出した工藤栄一が担当。そのためほぼセルフリメイク。慶応四年四月。西郷吉之助と勝安房の会談により江戸城は無血開城。ところが江戸市中には依然として幕臣や彰義隊が居座り、あちこちで小競り合いが起こっていた。官軍は治安回復のため武力で幕府の残党を一掃しようとした。的場惣一郎もその一人。怪しい者を片っ端から捕まえては即刻銃殺していた。そんな中、幕府軍の脱走兵の妻がおりくに仕事を依頼する。夫は助かっていない。せめて髪の毛でも、爪のひと房でも取り戻したい。夫の死を悼む気持ちに官軍も幕府軍もない。土佐ヱ門は鈴ケ森に晒された遺体から遺髪を持ち帰る。官軍の評判はすこぶる悪い。ある夜、白濱屋に徳松という男が一泊だけでも止めてほしいと頼み込んでくる。彰義隊の兵士だったが、怖くなって三河へ帰ろうとしていた。熱心に徳松の世話を焼く飯盛り女のおまきを心配するおりく。「戦騒ぎに心細くなって頼りになる男がほしくなったんでしょう」と土佐ヱ門は言う。「あたしも頼りになる人がほしい」「私でよかったら」。おりくは嬉しかったが、土佐ヱ門はいずれ新政府の役人に出世する。そのうち自分のことも忘れてしまうだろう。早く官軍に戻るよう勧めるが、そのつもりはない。「私の役目は終わったと思ってます。それに汚いことをあまりにも知り過ぎましたからね」。二人の会話を立ち聞きする直次郎。商売が上がったきりの直次郎は女衒仲間の仙吉に誘われ、官軍の仕事を手伝うようになっていた。土地に詳しい人間を戦力として欲しがっていた的場は仙吉と直次郎を歓迎していた。そんなこんなで急に直次郎の羽振りが良くなる。土佐ヱ門は直次郎が官軍に協力していることを知り激昂する。「直!手前えいつから犬になった!」「俺は官軍のために仕事してんだ!あんただって官軍だろ!」「だからなおさら許せねえんだ!」。開き直る直次郎に怒りが収まらない。「お前には男の意地や誇りってものがないのか」「ふん。そんなもんがいまさら何の役に立つってんだ。世の中変わるんだ。俺はお国のために働いてるんだ」。二人の友情は決裂する。土佐ヱ門は的場を訪ね、今のやり方を諌めるが、的場は出世のため悪名であっても名を残したいと言う。ある日、直次郎と仙吉はおまきと徳松のやり取りを耳にする。おまきは見逃してほしいと懇願。元々この仕事に乗り気でなかった直次郎はなんとかすることを約束するが、仙吉は的場に報告、徳松はおまきの目の前で斬り殺される。おまきと土佐ヱ門に責められた直次郎は潔白を証明するため仙吉を訪ねる。仙吉は直次郎の正体がからくり人だと知っていた。しかも的場に報告、既に官軍の兵士達に取り囲まれていた。激しく抵抗するが無残にも斬り殺される。翌朝、土佐ヱ門は直次郎を訪ねるが、そこには変わり果てた直次郎の姿しかなかった。「直!」。土佐ヱ門は直次郎を優しく抱きしめる。直次郎は手紙を残していた。「女将さん、いやおりくさんと呼ばせて下さい。色々お世話になりました。あまり自慢できる一生じゃございませんでしたが決して後悔しておりません。これもおりくさんはじめ仲間のみんながいてくれたおかげです。だが裏の稼業ももうこれまでです。仙吉や官軍の警備隊に気づかれました。一刻も早く逃げて下さい。おりくさん、おりく」。おりくはからくり人の解散を決意するが、土佐ヱ門と新之介は直次郎の仇討ちを誓う。官軍には戻らない。土佐ヱ門はおりくの着物を持ち出し、直次郎の体に巻きつける。「直、そんなに女将さんに惚れてたのかい。いいとも、これからは女将さんの匂いに包まれてゆっくり眠るんだ」。総攻撃を明日に控え街中大騒ぎの中、大八車に直次郎を乗せて海に向かう。おりくの着物に包まれた直次郎を海に流すと、的場がいる総督府をめざす。新之介は泥酔した仙吉を仕留め、土佐ヱ門は的場から拳銃を奪うと錦の御旗ごと的場を射殺する。慶応四年五月十五日。上野の彰義隊に官軍の総攻撃が始まった。おりく、新之介、土佐ヱ門も別れの時を迎える。裏の稼業も忘れることに。忘れられるかなあ。夢の中のことと思えばいいさ。夢か。本当に夢だったかもしれないね。土佐ヱ門は直次郎のことを思い出す。「女将さん、直さんも夢を見過ぎていましたよ。心底女将さんに惚れてましたからね。そいじゃお達者で」。新之介は土佐ヱ門についていこうとするが「ダメだ。俺と一緒じゃ地獄を見るぜ。お前は若いんだ。俺みたいなばかな男と付き合うのはよせ」。荒野の中を一人で進む土佐ヱ門。後ろ姿を見つめるおりく。荒野に風が吹いている。お・わ・り毎回観るたびになんじゃこりゃの男過ぎるドラマに絶句。こんなもの突きつけられたらショーケンも優作も岸田森も工藤信奉者になるわ。前作も本作もほとんど金を受け取らない。動機はもっぱら私情。そのため従来のシリーズに比べるとカタルシスに欠けるのか、完成度の高さの割に視聴率的には苦戦したという。でも猛烈に面白い。面白すぎて困る。