南部のレストランでは未だに「白人専用席」と、「非白人席」があり、偶然ウォルフ達が入ったダイナーには、それがあった。
「おいてめぇ、そこに座るなんて冗談がキツイぜ。」
そう言ってウォルフに詰め寄ってきたのは、この前交差点で彼に絡んできたスポーツカーの男だった。
「済まないな、こっちは腹が減ってて仕方ねぇんだ。」
「ふん、そうかよ!」
軽く男をあしらったウォルフは、平然とした様子でメニュー表を開いた。
「何を食べたい?」
「ステーキにしようかな。」
「俺もそれで決めた。」
ウェイトレスにステーキを注文した二人は、ラリーの事件について町中で様々な憶測が飛び交っていることをアレックスに話した。
「あいつは死んで当然だ、と言ってる奴が多い。」
「そうかなぁ?別に迷惑掛けてなかったけどなぁ、彼。」
「まぁ、ここはバイブル=ベルトに近いから、聖書の教えに反して堂々と姦淫の限りを尽くしていたラリーが目障りだったんだろうさ。特に、アビゲイル=タンバレイン率いる婦人会や、マーチャー牧師の信徒達なんかは。」
保守的でよそ者を嫌うこの町で、ラリーは孤立していた。
常に女装し、周囲の非難の視線をもろともせずに胸を張って堂々とハイヒールで闊歩(かっぽ)する彼の姿を、昔から住んでいる住民達は苦々しい思いで見ていたに違いない。
アレックスがラリーと打ち解けたのは、彼の自由奔放なところにアレックスがひかれ、自然と意気投合したからだ。
「あの人、一体どうするつもりなんだろう?」
「さぁな。恐らく直接手は下さないだろう。」
「そうかな・・」
「安心しろ、俺がついてる。」
ウォルフはアレックスを安心させるかのように、彼の手をそっと握った。
ダイナーで腹ごしらえをした後、ウォルフが車を走らせて暫くしていると、白い車が自分達の後をつけていることに気づいた。
「さっそくおいでなすったか。」
ウォルフはそう言って笑うと、アクセルペダルを踏み込んだ。
「何、どうしたの?」
「どうやらジャックは猟犬を放って、俺達を殺そうとしているらしい。」
「えぇ~!?」
「そんな変な声を出すな。俺に任せておけ。」
二台の車は徐々にスピードを出しながら、町を遠ざかり、森の中にある幹線道路へと向かっていった。
「畜生、しつこい奴め。」
「一体どうするの?」
ウォルフは幹線道路から外れて森の中へと車を走らせた。
泥濘のある道を猛スピードで走る所為で、車内は激しく揺れた。
巧みなハンドルさばきでウォルフは白い車を窪地へと誘(おび)き出した。
「よし、出るぞ!」
「う、うん・・」
二人が車から出ると、白い車からスーツを着た若い男が出てきた。
その手には、サイレンサーつきの拳銃が握られていた。
「お前は誰だ?」
「それは知らないほうがいい。」
男はそう言うと、拳銃を二人に向けた。
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