「こちらへ来なさい。」
斎藤に連れられて千尋がやって来たのは、彼専用の執務室だった。
「あ、斎藤さん!」
「皆、集まったな。旦那さまからお話は聞いていらっしゃると思うが、今日から土方家で働くメイドの千尋君だ。」
「あの・・宜しくお願い致します!」
千尋はそう言って使用人達に頭を下げると、彼らは拍手で彼女を出迎えた。
「メイド長の山浦さんは何処に?」
「ああ、彼女なら・・」
「呼んだかしら?」
執務室に黒髪の女性が入って来て、千尋を見た。
「山浦さん、こちらが新しく入ったメイドの千尋君です。千尋君、メイド長の山浦さんです。解らない事があれば彼女に聞くように。」
「宜しくね。」
「宜しくお願い致します。」
千尋はそう言ってメイド長の山浦美佐子に挨拶すると、彼女は微笑んで千尋の肩を叩いた。
「わたしに付いてきて。今から仕事を教えるわ。」
「はい!」
美佐子に連れられ、邸宅内を案内された千尋は、そこでハウスメイドの仕事である炊事や洗濯、掃除などを教わった。
「仕事は沢山あるから、頭で憶えるようにね。あと、困った時はわたしか他のメイドに聞いて頂戴ね。」
「解りました。」
「じゃぁ千尋ちゃん、これから夕飯の支度をするわよ。」
美佐子とともにやって来たのは、土方家の厨房だった。
「吉田さん、この子が新しく入ってきた千尋ちゃんよ。千尋ちゃん、こちらは土方家のキッチンメイドの吉田さんと、料理長の香山さん。」
「千尋です、宜しくお願いします。」
吉田さんはふくよかな女性で優しく、料理長の香山は気さくな男だった。
「ねぇ千尋ちゃん、もう奥様にはお会いしたの?」
「はい・・とてもお綺麗な方でした。」
千尋がそう総美の第一印象を美佐子達に述べると、彼女らは一斉に噴き出した。
「あの、何かおかしなことでも・・」
「お綺麗な方だけど、奥様結構嫉妬深い方なのよ。旦那様がほら、色男でしょう? 女遊びが激しかった時に奥様が一時期精神的に体調を崩されて以来、もう女遊びは止めたっておっしゃっておられるけれど・・今はどうだか。」
「ああ、怪しいもんだぜ。奥様とご婚約される前、旦那様は毎日女から山のように恋文を貰っていたものなぁ。」
「そうそう、実家に恋文を送ったって話は本当らしいわよ。まぁ、容姿端麗で頭も切れた色男なら、この世の女達は放っておかないでしょうよ。」
千尋はジャガイモの皮を包丁で剥きながら、美佐子達の話に耳を傾けた。
「千尋ちゃん、旦那様があなたを女衒から買ったって、本当なの?」
「はい。身寄りがなかったものですから・・」
「そう。嫌な事を聞いたわね。」
その後、千尋と美佐子は料理の盛り付けをした。
「何だか緊張する・・」
「大丈夫、わたしがついているから。」
美佐子は不安がる千尋の肩を叩くと、ダイニングへと入っていった。
「失礼致します。」
ダイニングに入ると、そこには土方夫妻と1人の青年が葡萄酒を飲みながら談笑していた。
「土方君、その子は新しいメイドかい?」
翡翠の瞳を千尋に向けながら、客人はそう言って千尋を見た。
「大鳥さん、この子は新しくうちに入ったメイドの千尋だ。」
「ふぅん、こんなに可愛い子をよく見つけたね。」
客人は好奇心を剥き出しにしながら千尋を見つめたので、彼女は恥ずかしそうに俯いた。
「大鳥さん、彼女が恥ずかしがっていてよ。」
総美が咄嗟に助け船を出し、美佐子の指示に従って千尋は夕飯を土方達に配膳した。
(はぁ・・疲れた。)
その夜、千尋が溜息を吐きながら二階の屋根裏部屋へと行こうとした時、土方の寝室からくぐもった声が聞こえた。
今回は山崎さんの出番なし。
代わりに大鳥さんを登場させました。
大鳥さんは土方さんの知人で、家族ぐるみの付き合いがあるという設定です。
土方さんのモテモテぶりは史実で明らかになってるので、ここでもそれを炸裂させようかと思いましたが、削りました。
次回はちょっとH(というよりかなりH)な描写が入っているので、ご注意を。
にほんブログ村