1596年、尾張・磯村。
猫の額しかない小さな領土を治めながらも、堺で南蛮貿易を行い一代で財を築き上げた戦国大名・磯村昭義の白亜の城は、今日もその美しさを領民達に見せ付けていた。
その白亜の城にある庭が見渡せる城で、昭義が溺愛してやまぬ長女の美津姫が、優雅に琴を弾いていた。
「姫様、庭の桜も姫様の音色に喜んでおりまする。」
この城で働いて間もない美津姫の侍女・澪がそう言って庭の桜を見た。
「そう?」
美津姫はそう言って澪に微笑んだ。
「姫様、最近隣国で不穏な動きがあるとか・・もしやこの国に攻める気が・・」
そう言って不安がる澪の言葉を聞いて、美津姫は美しい顔を曇らせた。
「聞いているわ、その話は。父上は私を・・」
美津姫はそれっきり黙って、琴を弾いた。
艶やかな長い黒髪が、春の陽光を受け緑色に輝く。
透き通るような白い肌は美しく、桜色の少し膨らんだ唇は美しい歌を歌い始める。
領民達は美津姫の美しさをたたえ、彼女を“天女”と呼んでいた。
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Last updated
2012.03.07 15:19:47
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