突然瑞姫が大声を出したので、ルドルフは驚愕の表情を浮かべながら彼女を見た。
「ミズキ、何かわたしに隠している事はないか?」
「それを今、お話ししようと思っていたところです。」
「そうか。」
ルドルフは瑞姫を連れて、王宮庭園へと向かった。
「あの人―顕枝(あきえ)さんとわたしは、血が繋がっていない親子なんです。わたしの実母は、わたしを産んですぐに亡くなりました。」
瑞姫の話を、ルドルフは黙って聞いていた。
「物心ついた頃から、わたしはあの人を母親とは思ったことはありませんでした。あの人もわたしよりも、父との間に出来た弟の方を溺愛してましたし。あの人が嫌いでも、義理の弟は大好きですし、嫌いにはなれません。大学進学の時に、これでやっとあの人から解放されるって思ったんです。」
「ミズキ、これは余計なお世話かもしれないが、一度アキエさんと話し合ったらどうだろう? これから結婚したら親戚同士になるんだし・・」
「いいえ、あの人とは話したくありません。」
瑞姫はピシャリとそう言うと、不機嫌そうな顔をした。
その様子を見たルドルフは、瑞姫と継母の関係を結婚式まで何とか修復しなければと思い始めていた。
もうすぐ姑となるエリザベートと彼女の関係は良好であるが、それはエリザベートが放浪の旅に明け暮れ、ウィーンを留守にして瑞姫と会う時間が少ないからだろう。
それとは対照的に、幼い頃から血の繋がらぬ義理の母娘は互いに憎しみ合い、いがみ合っている。
ルドルフとて、実母であるエリザベートとの親子関係は良好とは言えぬほど、冷え切っていた。
物心ついた頃から宮廷を留守にし、祖母から厳格な教育を受けたルドルフは、瑞姫と継母の間にある深い溝が、他人事ではないように思えたのだ。
「ミズキ、わたしと母上は上手くいってないんだ。」
「え?」
「わたしはあの人に似ているが、あの人はウィーンをしょっちゅう留守にして、家族で休暇を過ごしたことは数回位だ。いつしかわたしはあの人と次第に距離を置くようになった。」
ルドルフはそう言うと、瑞姫の手を握った。
「実の親子であるわたし達でさえ気まずい関係なのだから、血が繋がっていない親子同士である君とアキエさんの関係が悪いものであることは解る。けれどそのままの状態にするよりも、互いに歩み寄る努力もしてみたらどうだろう?」
「歩み寄る努力、ですか?」
「君には君の、アキエさんにはアキエさんの想いがそれぞれある筈だ。でもそれを伝えないままでいると、互いに疲れるだけだよ。」
「でもそんな事・・」
「したくないのはわかる。けれど、このまま君達母娘の関係が険悪なままでは、結婚式を挙げることはできない。」
「ルドルフ様、そんな・・」
瑞姫はそう叫ぶと、驚愕の表情を浮かべた。
「この結婚はわたし達のものだけれど、周りから祝福されてこその結婚だろう? お願いだミズキ、アキエさんと一度話し合ってくれないか?」
「でも・・でも・・」
「わたしが居るから、大丈夫だ。」
「解りました・・」
瑞姫は納得していない様子だったが、ルドルフの要求を呑んだ。
「なんなの瑞姫さん、急にわたくしと話したいだなんて・・」
顕枝は渋面を浮かべながら、王宮内にある部屋へと入り、椅子に座っている義理の娘とその婚約者を交互に見た。
「お義母様、ずっとあなたにお聞きしたいことがあります。」
「何かしら?」
「お義母様は、わたしの事を憎んでいるの?」
一瞬、気まずい沈黙が彼らの間に流れた。
「どうして、そんな事を聞くのかしら? わたくしがあなたをどう思っているのか、もう解っている筈でしょう?」
「いいえ、わたしがあなたを勝手に憎んでいただけ。お願いお義母様、本当の事を教えて!」
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Last updated
2016.05.08 20:46:23
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