アンジェリカを出産して体調を崩していた瑞姫だったが、漸く床上げしてルドルフの協力を得ながら、大学に再び通い出した。
「ミズキ、余り無理はしないようにね。」
「ええ、解っております。」
瑞姫はそう言うと、ルドルフに抱かれている息子に手を振り、大学へと向かった。
「ミズキは今日から大学に通う事になったのか。」
フランツは瑞姫が出て行った後、渋面を浮かべながらルドルフを見た。
「ええ。授乳時間以外はなるべく大学で学びたいと彼女が言いましたし、わたしも彼女に出来る限り協力するつもりです。」
「そうか・・」
フランツはどうやら、嫁が息子に孫を押しつけて大学に行くことが気に入らないようだった。
だがその事で漸く和解した息子と諍いを起こしたくなかった為、フランツは何も言わなかった。
ルドルフは瑞姫と結婚し、一児の父親となってから、少し性格が丸くなったように思えた。
瑞姫は瑞姫で、慣れない宮廷生活に馴染もうと努力し、公務と学業を両立させてきた。
彼女の見えない努力が功をなしたのか、当初瑞姫とルドルフの結婚に批判的だった貴族達が、少しずつ彼女をオーストリアの皇太子妃として認めるようになってきたが、まだ多くの者は瑞姫を認めようとはしなかった。
「ミズキ、久しぶりね!」
「ええ。」
「もう体調は良いの?」
久しぶりにキャンパスに足を踏み入れ、マリー達と談笑していた瑞姫は、出産で休学していた分の遅れを取り戻すかのように、学業に励んでいた。
「ただいま帰りました。」
「ミズキ、お帰り。アンジェリカは今日も良い子にしていたよ。」
ルドルフはそう言うと、妻を抱き締めた。
「いつもすいません、ルドルフ様。」
「君はしたいことをすればいいんだよ、ミズキ。アンジェリカの世話をするのは楽しいからね。」
夫の言葉に、瑞姫は笑顔を浮かべた。
瑞姫が大学に復学してから数日後、東欧の王国・ローゼンシュルツ王国からセーラ皇太子夫妻がウィーンへとやって来て、ホーフブルクでは彼らをもてなす為の舞踏会が開かれた。
「お初にお目にかかります、セーラ皇太子様。」
瑞姫がそう言ってセーラ皇太子に頭を下げると、彼はプラチナブロンドの長い巻き毛を揺らしながら、彼女に微笑んだ。
「お会いしたかったです、ミズキ様。宮廷での生活はもう慣れましたか?」
「ええ。これもルドルフ様のお蔭ですわ。」
「そうですか。優しい夫を持ってあなたは幸せ者だ。2人目が出来るのももうすぐかもしれませんね。」
「まぁ、嫌ですわ。」
瑞姫とセーラ皇太子が談笑していると、皇太子の夫であるリヒャルトがやって来た。
「ミズキ様、妻が何かおかしな事を吹き込んではいませんでしたか?」
「いいえ。それよりもセーラ様、お子様はまだですの?」
瑞姫の質問に、先ほどまで笑顔を浮かべていたセーラの顔が急に強張った。
「ミズキ様、申し訳ありませんが少し体調が優れませんので、これで失礼致します。」
セーラ皇太子はそう言って大広間から出て行った。
「あの、わたくし・・」
「妻の事はお気にならさないでください。では失礼。」
リヒャルトはさっと瑞姫に頭を下げると、セーラ皇太子の後を追った。
「ミズキ、どうしたんだい?」
「ルドルフ様、わたし何か酷い事をセーラ様に言ったかしら? セーラ様にお子様はまだかとお聞きしたら、急に不機嫌になられて・・」
瑞姫の言葉を聞いたルドルフは、眉間に皺を寄せた。
「ミズキ、あっちで話そう。」
ルドルフは彼女を人気のないバルコニーへと連れて行くと、溜息を吐いて口を開いた。
「ミズキ、セーラ皇太子様に子どもの事を尋ねるのは不味かったかもしれないね。」
お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2016.05.08 20:59:10
コメント(0)
|
コメントを書く
[完結済小説:lunatic tears] カテゴリの最新記事
もっと見る