2012年12月24日、ウィーン。
ホーフブルクでは皇帝と皇太子夫妻主催のクリスマスパーティーが開かれ、そこには珍しくエリザベート皇妃の姿もあった。
「まぁアンジェリカ、会わない内に大きくなったこと。」
エリザベートは初孫のアンジェリカの姿を見ると、彼を抱き上げた。
アンジェリカは最初祖母の顔を見てキョトンとしていたが、キャッキャッと彼女の腕の中で笑い始めた。
「ミズキ、わたくしの代わりに公務をして下さってありがとう。いつも済まないわね。」
「いいえ、皇妃様。ギリシャへのご旅行はいかがでしたか?」
「素晴らしいところだったわ。あなた達も一度いらして、ケルキラ島に別荘を買ったのよ。」
「ええ、機会があれば伺いますわ。」
嫁と姑の間に流れる和気藹藹とした空気に、周囲の宮廷人達は少し訝しがりながらも、2人は上手くやっていると認めた。
「皇妃様、お誕生日おめでとうございます。これは、わたくしからのささやかなプレゼントですわ。」
瑞姫はそう言うと、真紅の包装紙にラッピングされた小箱をエリザベートに手渡した。
「あら、何かしら?」
エリザベートがそっと白いリボンを解き、小箱の蓋を開けると、そこにはハート形をしたビーズ細工のバレッタがあった。
「まぁ、可愛らしいこと。あなたが作ったの?」
「ええ。皇妃様は宝石がお好きですから、ルビーと翡翠で作ろうと思ったのですが、材料費が高くて・・安っぽいもので、申し訳ありません。」
「何を言うの、ミズキ。わたくしの為に作ってくださったあなたの心を、このバレッタとともに頂くわね。」
エリザベートはそう言うと瑞姫を抱き締め、艶やかな黒髪にバレッタを留めた。
「どう、似合うかしら?」
「ええ、良くお似合いですわ。」
「ありがとう。大切にするわね。」
エリザベートと瑞姫が微笑み合っているのを見ながら、ルドルフはシャンパンを飲んだ。
「少し暑いですね。」
ドレスの衣擦れが聞こえたかと思うと、いつの間にかセーラ皇太子がルドルフの隣に立っていた。
「セーラ様、ご懐妊おめでとうございます。経過は順調ですか?」
「ええ。つわりが漸く治まりましてね。」
セーラ皇太子はそう言うと、少し丸みを帯び始めた下腹を擦った。
「リヒャルト殿はどちらに?」
「彼なら皇帝陛下と話しております。恐らく子どもについて色々と相談しているのでしょうね。ルドルフ様、彼は良い父親になるでしょうね。」
「ええ。それよりも子どもが産まれたら色々と大変ですから、今の内に夫婦として話し合った方がいい。」
「解りました。」
「おやおや、仲がおよろしいようで。」
瑞姫が扇子を片手に携えながらルドルフ達の元へとやって来た。
「セーラ様、予定日はいつですの?」
「来年の6月です。ミズキ様は?」
「わたくしはまだ・・でもアンジェリカが幼稚園の年長さんになったら考えますわ。」
「そうでしたか。ミズキ様、色々とお話を聞かせて下さいません?」
「ええ、勿論ですわ。」
女達は笑いさざめきながら、バルコニーの近くにある長椅子へと向かい、腰を下ろした。
「ルドルフ様。」
「シリル、来ていたのか。」
「ええ。それよりもルドルフ様、今年は賑やかなクリスマスですね。」
「ああ・・」
ルドルフはそう言うと、両親に抱かれている息子の笑顔や、セーラと瑞姫の笑顔を見た。
今年は最高のクリスマスだ―ルドルフはそう思うと、ゆっくりと妻達の方へと歩き出した。
―FIN―
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Last updated
2016.05.08 21:10:47
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