凛たちの計画は、着々と進んでいた。
彼女が桂に渡したあの液体は、「万病に効く薬」として洛中に売られ、その言葉につられた町民達が競うように買い求めた。
「さぁさぁ、寄っておいで~、万病に効く薬だよ~!」
「うちにも頂戴!」
「うちにも!」
薬売りがガラス瓶に入った液体を取り出すと、女達は奪い合うようにしてそれを手に入れた。
ある者は自分の家族の為に、そしてある者は自分の美容の為に、毎日その液体を飲み続けた。
その結果、ある出来事が新選組の耳に入った。
「謎の液体を飲んだ町民達が次々と病に臥せっているだと?それは本当か、斎藤?」
「はい、病に臥せっているものは、一人や二人だけではないそうです。」
斎藤はそう言うと、溜息を吐いた。
「そうか。斎藤、早速その薬の調査をしろ。」
「かしこまりました。」
斎藤が副長室から出て行くのを見た美津は、何か嫌な予感がした。
「最近、洛中でおかしな薬が流行っているそうですよ。」
「おかしな薬?」
「ええ。飲めば労咳もたちまち治るという、万病に効く薬だとか。効果はあやしいものですね。」
「もしかして、凛が裏でこの騒動を操っているのかもしれないわ。」
「だとしたら、また彼女と会うことになるかもしれませんね。」
エーリッヒはそう言って、眦をつり上げた。
美津達がいつものように巡察をしていると、何やら人だかりができている。
「何かしら?」
「行ってみましょう。」
美津と四郎が人だかりを掻き分けていくと、そこにはあの液体を売っていた薬売りの姿があった。
「旦那、どうです?これが巷で人気の・・」
「これで本当に労咳が治るのかどうか、怪しいものだな。」
四郎はそう言って薬売りの手から液体が入ったガラス瓶を奪うと、それを地面に叩きつけた。
「何をなさるんですか!」
「怪しげな薬を売れと命じたのは、誰だ?」
四郎が薬売りの胸倉を掴むと、彼は首を横に振った。
「うちは何も知りまへん!茶店で団子を食っとったら男に薬を渡されたんどす!」
「どんな風体をした男だ?」
「顔は笠を被っていて良く見えませんでしたが・・大小を腰に差してたから、多分何処かの藩侍やと思います。」
「そうか。さっさと立ち去れ。今度薬を売っているのを見つけたら奉行所に突き出してやる。わたしの気が変わらない内に失せろ。」
「へ、へぇ・・」
薬売りは商売道具を路上に広げたまま、脱兎の如く四郎たちの元から立ち去った。
「薬売りのことを副長に報告しなくてはなりませんね。」
「ええ、そうね。」
四郎と美津が連れたって屯所へと戻ろうとしたとき、路地裏から抜き身の刃を光らせた男達が彼らの前に躍り出てきた。
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Last updated
2012.10.10 15:30:47
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