「久しぶりだね、美輝子ちゃん。」
内田はそう言うと、ニィッと口端をあげて笑った。
「実家に帰ったんじゃないんですか?」
「ううん。それよりも美輝子ちゃん、折り入って君に話があるんだけど・・」
「何の話ですか?」
「僕と、結婚してくれない?」
「は?」
一体彼が何を言っているのか解らず、美輝子は思わず内田の顔を見てしまった。
「いやぁ、君と初めて会ったときから、タイプだったんだよねぇ。だから、結婚しよう?」
「何言ってるんですか?あなたとは結婚しません!」
美輝子は恐怖を覚え、すばやく自転車に跨ると校門から出て行った。
ちらりと後ろを振り返ると、内田が鬼のような形相を浮かべて自分の後を追いかけて走ってくるところだった。
パニックになりかけながらも、美輝子は必死にペダルを漕ぎ、団地の駐輪場へと自転車を停めると、一気に階段を駆け上がった。
「どうしたのお姉ちゃん、怖い顔して?」
「さっき・・学校であいつを見たの。」
「あいつって・・まさか内田?」
水を差し出した薫がそう言って姉を見ると、彼女は静かに頷いた。
「結婚しようって言われたの。あいつ何処かおかしいよ!」
「落ち着いて、お姉ちゃん。パパにはあたしから話しておくから、お姉ちゃんは休んで。」
「ありがとう。」
水を一気に飲み干した美輝子は、そのまま部屋着に着替えて奥の和室に入った。
「美輝子、どうしたんだ?あんなに慌てて・・」
「パパ、ここに住んでる内田って大学生知ってるでしょ?あいつ、学校でお姉ちゃんのこと待ち伏せして結婚しようって言ったんだって。」
「何だと、それは本当なのか?」
歳三の眦が上がったとき、玄関のドアが誰かに激しく叩かれる音がした。
「居るのはわかってんだよ、出てこいよ!」
ドアの向こうで聞こえる怒声は、紛れもなく内田のものだった。
「てめぇ、こんな時間に何の用だ!」
歳三が木刀片手にドアを開けると、内田は突然しおらしくなった。
「すいません、あの・・美輝子さんいらっしゃいませんか?」
「てめぇ、娘に手を出したら承知しねぇぞ!警察にしょっぴかれる前に帰りやがれ!」
「わかりました・・」
ドアが閉まり、内田の足音が遠ざかってゆくのが聞こえると、歳三は漸く木刀を下ろした。
「パパ・・」
「あいつ、おかしいな。暫く美輝子を一人にさせるんじゃねぇぞ、わかったな?」
「うん。でもさ、お姉ちゃん明後日には合宿なんだから、たぶん大丈夫だと思うよ?」
「油断大敵だぞ、薫。学校側には俺がうまく説明しておく。お前も気をつけるんだぞ。」
「わかった・・」
数日後の朝、美輝子が合宿先の長野へと旅立った後、一人で留守番をしていた薫の元に、また内田がやって来た。
「薫ちゃん、お姉さんは?」
「姉は部活の合宿に行ってます。」
「何処なのか、聞いてない?」
「知りません!あなたいい加減にしないと警察呼びますよ!?」
「また来るから、じゃぁね。」
合宿先のホテルで美輝子は友人と部屋で寛いでいると、キャプテンが部屋に入ってきた。
「土方さん、あなたに会いたいって人が・・」
「誰ですか?」
「さぁ、とにかくロビーに来てくれって・・大学生風の男の人。」
キャプテンの言葉を聞いたとき、美輝子の背筋に鳥肌が立った。
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