「判決を言い渡す。被告人には、死刑を処する。」
裁判官がそう言った瞬間、傍聴人席に座っていた真那美は安堵の表情を浮かべながら槇に微笑んだ。
被告人席では、華凛を殺した柏木薫が項垂れたまま手錠を掛けられ、法廷を後にしようとしているところだった。
「待って。」
真那美はそう言うと、自分の方へと振り向いた薫を睨みつけた。
「あなたを、わたしは死ぬまで許しません。あなたの自己中心的な考えが、叔父の命を奪った。刑務所の中で、その日が来るまで自分の犯した罪を考えてください。」
真那美の言葉を聞いた薫は微かに顔を歪めると、彼女に背を向けた。
「もう、気が済んだかい?」
「ええ。行きましょう、もうここに居る必要はありません。」
「そう・・今日はいい天気だから、ドライブにでも行こうかね?」
「いいですね、行きましょう。」
裁判所を後にした真那美は、槇が運転する車に乗り、琵琶湖へと向かった。
冬の琵琶湖は雪に包まれ、幻想的な雰囲気を醸し出していた。
厚手のコートを纏った真那美は車から降りると、冬の冷気に包まれて思わず寒さに震えた。
彼女はゆっくりと、華凛の遺体が発見された場所に花を供えた。
「叔父様、どうか安らかに眠って下さい。いつかわたしが叔父様達の元に行くまで、どうか天国でわたし達のことを見守って下さい。」
真那美はそう呟くと、合掌した。
「君は、これからどうするつもりだい?」
「篠華流を継ぎます。それが、わたしに託された役目ですから。」
「そうか・・」
「槇さん、お願いがあるんです。」
「何だい?」
「嵐山に行きたいんです・・」
「わかった。」
数時間後、槇は真那美とともに嵐山にある美術館の前に立った。
それは、華凛が生前設計を手掛けたものだった。
古都の景観を損なうこともなく、優美で趣のある外観の美術館は、今や人気観光スポットとして有名である。
「ここに、叔父様は居るんですね。」
「そうだよ。華凛さんの魂は、ここに居るよ。君が彼に会いたい時には、ここに来なさい。」
「はい・・」
「もう行こうか?」
「ええ・・」
美術館の中に入らずに、真那美と槇は車を停めている駐車場へと向かおうとした。
“真那美、またね。”
その時、真那美の背後で華凛の優しい声が聞こえた。
真那美が慌てて背後を振り向くと、そこには訪問着姿で髪を結いあげた華凛が彼女に笑顔を浮かべながら立っていた。
「どうしたんだい?」
「叔父様が・・」
真那美がそう言って華凛が居た場所を指すと、そこにはもう彼の姿はなかった。
(また来ます、叔父様。あなたに会いに・・)
たとえ肉体は滅んでも、華凛の魂は自分の側に居るのだと思いながら、真那美は槇とともに美術館を後にした。
《完》
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Last updated
2013.09.28 14:42:27
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