翌日、総司は放課後またあの河川敷を1人で歩いていた。
今までと違うことは、あのいじめっ子達が居ないことだった。
昨日あの“怖いお兄ちゃん”から言われた言葉を総司は今朝思い出した。
“男ならガツンとガチでぶつかりやがれ!”
今までいじめっ子達にされるがままになっていた総司だったが、彼の言葉で目が醒めた。
「おい総司、ちょっと金貸せよ。」
総司が男子トイレに入ると、案の定いじめっ子のリーダー格がそう言って彼に詰め寄って来た。
「何でお前に金なんか渡さないといけないの?」
「てめぇ、生意気だぞ、この俺様に向かって!」
険しい顔で自分を睨み付けるリーダー格を、総司は睨み返した。
「吉田君、そうやっていつも人にたかるの止めたら? みっともないと思わないの? 吉田君ん家、貧乏なの?」
総司はわざとリーダー格を挑発し、彼が自分に飛びかかってくるのを待った。
「てめぇ、ぶっ殺す!」
案の定、吉田は大きな身体を揺らしながら総司に向かって殴りかかって来た。
(今だ!)
総司は吉田の攻撃をかわし、彼に足払いを掛けた。
不意を突かれ、唖然としている彼の顔に、トイレ掃除用のモップを総司は押しつけた。
いつもトイレに行った時、こうやって彼にモップを押しつけられ、ランドセルの中から給食袋を抜かれたものだ。
だが、今は違う。
「吉田君、今度僕をいじめたりしたら、殺すよ?」
子どもらしからぬ物騒な台詞を吐きながら、総司は恐怖にひきつる吉田の顔を見て笑った。
「冗談だと思ったら大間違いだよ。じゃぁね。」
総司はさっさと男子トイレから出て行くと、教室に入った。
それから放課後まで、吉田はいつものように取り巻きを引き連れて総司をいじめようとはしなかった。
まさか泣き虫の彼が反撃に出てくるとは思わなかったのだろう。
放課後、総司は河川敷を幸福な気持ちで歩いていた。
いつも家まで、吉田達に殴られながら歩いて来た河川敷が、今は全く違った風景に見えてきた。
(あのお兄ちゃん、今日も来てるのかな?)
総司は「怖いお兄ちゃん」に今日の事を報告したくて、河川敷の周りを見渡したが、そこにはどこも人影がなかった。
少しがっかりしながら、総司は家路に着いた。
「ただいまぁ。」
「お帰りなさい。今日もまたいじめられたの?」
みつがそう言って心配そうに総司を見つめて来たので、彼は首を横に振った。
「ううん、今日は僕をいじめてる子に反撃したよ! そいつ、放課後まで僕の事いじめなくなったよ!」
「そう・・」
みつは少し浮かない顔で弟の報告を聞くと、台所へと向かった。
一方、総司が河川敷で会えなかった「怖いお兄ちゃん」は、繁華街の裏路地で不良達と喧嘩していた。
「てめぇら、この俺を怒らせたら骨の1本や2本じゃ済まねぇぞ!」
彼はまるで般若のような顔で木刀を喧嘩相手に振るった。
「あ、サツだ、逃げろ!」
「畜生、良い所を邪魔しやがって!」
彼は不良達を叩きのめすと、裏路地から立ち去った。
「上手く撒けたな・・」
パトカーのサイレンが遠ざかり、ほっと胸を撫で下ろした彼は、制服の胸ポケットから煙草を1本取り出して口に咥えると、それにライターの火を点けた。
「あの餓鬼、どうしってかなぁ・・」
紫煙を吐きだしながら、彼は鬱陶しそうに前髪を掻きあげた。
「あ、雨降ってきた。」
夜布団に入る前、総司は雨音に気づいて窓際へと向かった。
外では、激しい土砂降りの雨が降っていた。
(あのお兄ちゃん、濡れてないかなぁ・・)
「総司、何やってるの、早く寝なさい。」
「はぁ~い。」
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