「やっぱり、故郷はいいねぇ。」
7年振りにウィーンから帰国した総司は、宿泊先のホテルへと向かうタクシーの中でそう言って欠伸をした。
「総司、体調は大丈夫か?」
「うん、何とか。これから忙しくなるのに、倒れないようにしないと。」
総司はアルバムの収録で日本に一時帰国し、1週間滞在する予定だった。
(姉さん達、元気にしてるかな?)
日本に帰国する前、2人の姉達に連絡すると、時間があれば実家に帰ってきてもいいという返事が来たので、スケジュールを調整して一と帰ろうと総司は想っていた。
「ねぇ一君、時間があったら僕の実家に行かない? 家族に君の事を紹介したいし、母さんの墓参りもしたいし。」
「ああ、解った。」
宿泊先のホテルに着いてゆっくりと休めるかと思いきや、マスコミの取材が殺到し、夕食前に少し横になっただけでその後はパーティーが待っていた。
「はぁ・・何だかこんなに忙しいとは思わなかったよ。」
取材の後、総司はそう言ってベッドに倒れ込んだ。
「余り無理しない方が良い。」
「うん・・」
一眠りした後、ウィーンで誂えたスーツを纏った総司は、一とともにパーティーへと向かった。
流石一之瀬財閥が主催するパーティーとあって、招待客は経済界の大物や財閥の御曹司が多い。
その中で上手く溶け込めるだろうかと思いながらも総司が会場へと一歩入ると、突然客達が談笑を止め、自分と一の方をじっと見つめた。
(何?)
「どうした、総司?」
「べ、別に・・」
「俺達がパーティーに登場することは知らされてなかったのだろう。前を向いて堂々としていろ。決して俯くな。」
一は総司を安心させるかのように彼の手を握った。
その時、強い視線を感じて総司が顔を上げると、そこには過去の恋人が立っていた。
忘れようにも忘れられない、琥珀色の双眸は獲物を狙う狼のように自分を鋭い眼差しで見つめている。
(どうして、あなたがここに?)
「総司、どうした?」
「う、ううん、何でもない。」
総司は歳三の視線から逃れるように彼にそっぽを向くと、彼の手を握ったまま隅のテーブルへと行こうとした。
だがその時、楽団がタンゴを奏で始め、招待客の男女が踊りの輪を作り始めた。
「一く・・」
一と踊ろうとした総司だったが、歳三が一と総司の間に割って入り、素早く彼を総司から引き離してしまった。
「離してください。」
「1曲踊るだけならいいだろう?」
歳三は強引に総司の手を引くと、踊りの輪へと加わった。
男女のペアの中で、男同士の歳三と総司は一際目立った。
「総司、久しぶりだな。あいつは新しい恋人か?」
「あなたには関係ないでしょう。」
「関係あるんだよ、大いにな。」
黒豹のようなしなやかな肢体を持つ歳三と、華奢な身体を持つ総司とのタンゴは何処か官能的であり、招待客達はいつの間にか彼らの踊りに魅入られていた。
「もうお前を逃がす訳にはいかねぇ。こうしてまた会えたんだからな。」
歳三はそう言うと、総司の腰に爪を食い込ませた。
「土方さんと踊ってる奴って、確かチェリストの沖田総司じゃないか?」
「ああ、確かに彼だな。どうやらトシとは知り合いらしいな。」
どうして、忘れてしまった頃に再会してしまったのだろう。
一番愛していた人に、恐れていた人に再会するなんて、思っていなかった。
やがて曲が終わり、総司はそっと歳三から離れようとした。
「今夜、10階のバーに来い。」
歳三は自分の携帯番号とメールアドレスを掻いたメモを総司に渡すと、近藤達の元へと向かった。
「総司、大丈夫か? 顔色悪いぞ?」
「大丈夫。一君、先に部屋に戻って居てくれる? ちょっと用事が出来たから。」
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Last updated
2015.06.07 14:23:36
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