新郎が新婦を置いて、見知らぬ青年と失踪したことにより、結婚式場は大混乱に陥った。
この事により一番の被害者である新婦は、控室に籠ったままずっと泣き続けて出て来なかった。
「全く、トシは一体何を考えているのかしら?」
新郎の姉・信子はそう言って新郎・歳三の事で夫に愚痴ると、彼は苦笑いを浮かべた。
「余程琴枝さんとの結婚は嫌だったんだろうな、きっと。」
「でも突然あの子と駆け落ちするだなんて酷過ぎない?」
「酷過ぎるのはわたし達だと思わないか、のぶ? 家の為に、トシに望まぬ結婚を強いるのは。」
「それもそうね・・」
(トシ、総司君と幸せにね。)
信子は結婚式に駆け落ちした弟の身を案じた。
その頃、総司と歳三は高速道路のサービスエリアでコーヒーを飲んでいた。
「これから何処に行きます?」
「そうだなぁ、この際だから新婚旅行に海外でも行くか?」
「え・・」
思いがけない歳三の言葉に、総司は目を丸くした。
「でも、パスポートや荷物はどうするんですか?」
「ああ、それなら車のトランクにあらかじめ積んでおいた。お前の分の荷物も入ってるぞ。」
「ええ~!」
総司の叫び声に、数人の男女が一斉に彼らの方を見た。
「でも、海外だとすぐに行ったことが解るんじゃないんですか?」
「別に海外に住むって訳じゃねぇんだから、いいだろ?」
歳三はそう言うと、総司に微笑んだ。
サービスエリアを出た2人は、空港へと向かった。
「琴枝、気分は落ち着いた?」
「落ちつける訳ないでしょう!」
漸く新婦控室から出て、ホテルの部屋へと入った琴枝は、母親に対して怒りをぶつけた。
「トシ、そんなにもわたしとの結婚が嫌だったんだ。それにしても突然あの子と駆け落ちするだなんて許さない・・」
琴枝はそう呟くと、歳三と総司への憎しみを滾らせた。
空港に着いて国際線の搭乗ゲートに入った総司は、どっと疲れが押し寄せて来て欠伸をした。
「疲れたか?」
「ええ。土方さん、何時の間に服着替えたんですか?」
純白のタキシードから、歳三は普段着へと着替えていた。
「目立つだろう、あの格好じゃぁ。」
「じゃぁ僕も着替えますね。」
総司は慌てて男子トイレで着替えを済ませ、歳三の元へと走った。
「さてと、常夏のリゾートへ出発だ。」
「はい。」
2人がホノルル行きの飛行機に乗り込んだ後、歳三の携帯が突如鳴り始めた。
(誰からだ?)
彼が液晶を見ると、そこには「琴枝」の表示が出ていた。
「お客様、携帯電話の電源はお切り下さい。」
「解った。」
歳三は携帯の電源を切った。
「もうっ、何で出ないのよ!」
琴枝はそう叫んでスマートフォンをベッドに投げると、シーツを頭から被って叫んだ。
「暫くそっとしておいてあげましょう。」
「そうだな・・」
部屋の中から娘の金切り声が聞こえ、琴枝の両親は静かに自分達の部屋へと入って行った。
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Last updated
2015.06.07 21:05:46
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