イラスト素材提供サイト:薔薇素材Mako's様
エリーザベトに扇子で打たれた頬に血が伝っても、レオンはそのまま彼女の前に跪いていた。
「もう下がりなさい。」
「は・・」
レオンはそう言ってゆっくりと立ち上がり、そのまま謁見の間を後にした。
「レオン様、お待ちください!」
謁見の間から出たレオンが大理石の廊下を歩いていると、エリーザベト付の侍女が彼の方へと駆け寄って来た。
「レオン様、これで・・」
「要らぬ。大した怪我ではないからな。」
「ですが・・」
「俺はしつこい女は嫌いだ。」
レオンはそう言って侍女に鋭い一瞥(いちべつ)を与えると、彼女は慌てて彼に頭を下げて去っていった。
―おい、あれ見ろよ。
―また陛下と痴話喧嘩でもしたのか?
口さがない連中がレオンと廊下で擦れ違うたびに、そんな陰口を叩き合っていた。
だが当の本人はそんなものなど何も感じなかった。
自分が女王の愛人であるという噂など、とうに聞き飽きた。
それに、その噂は事実なのだから、コソコソと女王と密会するなどみっともない事をするのはレオンの性には合わなかった。
レオンは暫く宮殿内の廊下を歩き、目的の場所へとたどり着いた。
そこは、女王専用の浴室だった。
絶大な魔力を持つ『黒蝶王』であるエリーザベトが、その魔力を高める為、一日に四度入浴する習慣があることを、レオンは知っていた。
「陛下は中におられるか?」
「はい。」
女官はレオンの顔を見ると、そのまま浴室の中へと彼を案内した。
「陛下、失礼いたします。」
レオンが浴室に入ると、白い大理石を使った巨大な浴槽の中央に、部屋の主は居た。
抜けるようなエリーザベトの白い肌は湯を弾いて輝いていた。
「来たのね。」
湯煙の中からレオンの姿を確認したエリーザベトは、そう言うと彼に向かって微笑み、彼の方へと近づいた。
「痕が残ってしまうかしら?」
エリーザベトはそっとレオンの白い頬に残る真新しい傷を撫でると、婀娜(あだ)めいた目で彼を見た。
「失礼いたします。」
レオンがゆっくりと服を脱いで裸になるのを、エリーザベトは黙って見ていた。
「陛下、アメリア様は俺が全力を尽くして必ず見つけ出します。」
「その話はもういいわ。それよりもレオン、今からわたしと裸の付き合いをしましょう?」
「ええ、喜んで。」
レオンは女王の黒髪を口づけると、そのまま彼女と浴槽の中で戯れた。
「俺が陛下の愛人であるという噂が宮廷内で広まっています。」
「事実なのだから、そんな噂を気にしない方がいいわ。レオン、もっと早くに貴方と出会っていたのなら、わたしは幸せになれたでしょうね。」
「昔の事を悔やんでも仕方がありませんよ、陛下。それよりも俺とこの先築く未来についてお考え下さい。」
「そうね・・」
エリーザベトは深紫の瞳でレオンを見つめると、そっと彼の唇を塞いだ。
「陛下、貴方を心から愛しております。」
「わたしもよ、レオン。」
作品の目次は
コチラです。
にほんブログ村