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コチラからお借りいたしました。
「薔薇王の葬列」二次創作小説です。
二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。
二次創作が嫌いな方は読まないでください。
(俺は、男になりたかった・・それなのに、どうしてこんな物がついているんだ。)
ひとしきり泣いたリチャードは、そう思いながら晒しの下に隠された乳房をそのまま握り潰さんばかりに両手でそれを掴んだ。
自分が男と女、両方の性を以て生まれてきた事を知ったのは、13の時に初潮を迎えた日の朝の事だった。
下腹と腰に鈍痛が走り、違和感を抱いた後、褥の上に広がっている赤い染みを見たリチャードは、恐怖のあまり泣き叫んだ。
その時慌てふためくリチャードを優しく宥め、処理の方法を教えてくれたのはケイツビーだった。
彼はリチャードの出産に乳母と共に立ち会い、彼が両性具有である事を知る数少ない人物の一人でもあった。
『お前は知っていたのか?俺がこんな身体だと言う事を!』
そうリチャードがケイツビーを詰った後、彼は何も言わずに俯いた。
『リチャード様、どうか貴方様のお傍に居ることをお許しください。』
それから、ケイツビーは常にリチャードの傍に寄り添うように仕えていた。
妓楼には男の使用人が何人か居るが、ケイツビーの様に一人の妓生に仕える使用人の存在は稀で、妓楼内ではリチャードとケイツビーが恋仲ではないのかという事実無根の噂が飛び交う始末だった。
男でも女でもない自分を受け入れてくれたのはケイツビーだった。
母親や周囲から疎ましがられ、常に孤独だった自分に寄り添ってくれたのはケイツビーだった。
冷たい夜風を頬に受け、リチャードはケイツビーに急に会いたくなり、先程飛び出していった邸宅へと戻ろうと、森の中を歩き始めた。
闇に包まれた森の中では、時折聞こえる鳥の鳴き声や、木々のざわめき以外何も聞こえず、静寂に包まれていた。
リチャードにとって、闇に包まれた夜の森は恐怖そのものだった。
何故なら、母親のセシリーは幼い自分を夜の森に一晩中置き去りにし、そのまま姿を消してしまったからだ。
セシリーから疎まれている事を、リチャードは森に置き去りにされる前から薄々と感じていた。
王家の血筋をひいた両班の名家の妻として生きる彼女にとって、出来の良い息子達の後に生まれて来た「厄介者」は、邪魔な存在でしかなかったのだ。
一晩中森の中で夜を明かし、木の洞の中で寒さに震えているリチャードを見つけたのは、「瑠璃楼」の行首・チョンジャとケイツビーだった。
親に捨てられたリチャードを哀れに思ったチョンジャは、我が子同然にリチャードを育てた。
剣術や乗馬の腕もさることながら、舞や楽器、書画に於いても一流だったリチャードは、妖艶でありながら何処か謎めいた雰囲気を持った童妓として成長していった。
やがては名妓に成長するであろうリチャードの噂はたちまち都中に広がり、リチャードの水揚げをしたいと申し出たのは好色家として名高い両班の嫡男・エドワードだった。
その水揚げのお膳立てをしたのがチョンジャだと知っていながらも、リチャードはそれを蹴った―養い親の顔に、泥を塗ったのも同然の行為をしたのだ。
どんな顔をしてチョンジャと会えばいいのかわからなかったリチャードだったが、せめて白粉が崩れた顔で彼女と会いたくなかったので、近くにあった池の前に屈みこんでその水で顔を洗った。
その時、誰かが背後から自分を抱き締める感覚がしてリチャードが振り向くと、そこには美しく澄み切った宝石の様な蒼い瞳をした青年が自分を見つめていた。
「駄目だよ、どんなに辛い事があっても、自分で命を絶とうとするなんて・・」
青年はそう言ってリチャードの手を掴んで立ち上がらせると、突然自分の方へとリチャードを抱き寄せた。
「何をする!」
入水自殺しようとしていたと勝手に勘違いされた挙句、見知らぬ青年に抱きつかれた事に激昂したリチャードはそう叫ぶと、青年を突き飛ばしてその頬を平手で打った。
「痛いよ・・」
「それ以上俺に近寄ると殺してやる!」
赤くなった頬を擦りながら、今にも泣きだしそうな顔で自分を見つめている青年に背を向け、リチャードは再び森の中を歩き出した。
一方、リチャードがエドワードを拒んだ事を知ったチョンジャは、溜息を吐いた後必死にエドワードに向かって平謝りした。
「どうかリチャードの事をお許しくださいませ、エドワード様。あの子はまだ幼いのです、男女の艶事などを知らぬ子を貴方様に宛がったのが間違いでした。」
「わたしも性急すぎたようだな。チョンジャ、わたしはあの子が大人になるまで待つとしよう。あの子という花はまだ固い蕾の中に隠れている。その花が開くまで、あの子の水揚げをわたしが貰うのは楽しみにしておこう。」
「わかりました、寛大なるエドワード様に感謝致します・・」
チョンジャはそう言ってエドワードに跪くと、彼の手の甲に接吻した。
リチャードが息を切らしながらエドワードの邸宅へと戻ると、彼の部屋からチョンジャが出て来た。
「行首様、申し訳ございませんでした・・俺は・・」
「エドワード様は、お前の事をお許しになられたよ。」
チョンジャはそう言うと、リチャードの肩を優しく叩いた。
「リチャード、お前の身体の事は知っている。いつかエドワード様に抱かれるその日まで、その身体を他人に開いてはいけないよ、わかったね?」
「はい・・」
「さぁ、帰るよ。」
チョンジャと共に邸宅を後にしたリチャードは、背後から視線を感じて振り向いたが、そこには誰も居なかった。
「どうしたんだい、リチャード?」
「いいえ、何でもありません。」
(何だろう、誰かに見られていたような気が・・)
チマの裾を摘みながらリチャードがチョンジャとケイツビーの後をついていく姿を、先程の青年が木陰から見つめていた。
彼はそっと、リチャードに打たれた右頬を擦った。
そこはまだ、リチャードの手の温もりが残っているような気がした。
(名前、聞いていなかったなぁ・・)
青年は、月に照らされた金色の髪を揺らしながら、森の中へと消えていった。
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