テーマ:二次創作小説(947)
「薄桜鬼」の二次創作小説です。
制作会社様とは関係ありません。 二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。 土方さんが「夜にだけ女になる」という特殊設定です。苦手な方はご注意ください。 歳三は、昼は宮廷付司祭として、夜は女官として忙しく働いていた。 「あ~、疲れた。」 宿舎の部屋でそう言いながらベッドに寝転がった歳三は、そのまま昼まで眠った。 「随分とゆっくりしていたね?」 「すいません・・」 「今後、気を付けるように。」 ヨーゼフはそう言うと、歳三に背を向けて去っていった。 「相変わらず、司教様はおっかないねぇ。」 そう言って歳三の前に現れたのは、フランツだった。 彼は歳三とは神学校時代からの親しい友人である。 「あの爺さん、いつも俺にだけ難癖つけるんだぜ、やってらんねぇよ。」 「まぁそう言うなって。それよりも昼飯、まだだろう?良い店に連れて行ってやるよ。」 「悪い、助かる。」 「いいって。」 フランツが歳三を連れて行ったのは、旧市街の中にあるカフェだった。 店内は昼食の時間帯なのか、賑わっていた。 「ここは、ほうれん草のキッシュとミートパイが美味しいよ。」 「そうか。」 「すいません、ミートパイひとつとほうれん草のキッシュひとつずつ。」 「あいよ!」 「それにしてもトシ、最近疲れていないか?」 「色々と忙しくてな・・」 「これから、クリスマスに向けて忙しくなるから、休める時は休まないといけないよ。」 「わかった。それよりもまだ八月だろ?クリスマスの準備には早くねぇか?」 「甘いよ、トシ!」 フランツはそう言うと、ほうれん草のキッシュを平らげた。 「あと四ヶ月しかないんだよ!急いでしないと!」 「お、おぅ・・」 フランツの剣幕に気おされた歳三は、飲んでいるコーヒーを口端から垂らしそうになった。 「さてと、これから忙しくなるから、お互いに頑張ろう!」 「わかった・・」 歳三は、フランツの熱血ぶりに少しひいていた。 「ヴァイオレット、遅いじゃないの!」 「申し訳ありません、リリア様。クリスマスの準備に追われておりまして・・」 「クリスマス?今はまだ八月よ!」 「リリア、この国ではクリスマスの準備は早くするのよ。」 「まぁ、そうなの!」 「フェリシティ様、先程は助けて下さってありがとうございました。」 「いいのよ。リリアにはわたしから、“今ヴァイオレットは忙しいから余りわがままを言うな”と言っておくわ。」 「お願い致します。」 「今夜はもう遅いからお帰りなさい。」 「はい・・」 (帰れっていったって、修道院の宿舎は閉まっているしなぁ・・) 歳三はそう思いながら、リリアの部屋がある離宮から、以前行けなかった宝物庫へと向かった。 その宝物庫には、古めかしい錠前が扉の前にかかっていた。 (クソ、鍵がねぇと中に入れねぇか・・) 歳三は舌打ちすると、そのまま離宮へと戻った。 「おい、君!」 「あ?」 歳三が振り向くと、そこには近衛隊の軍服を着た青年が立っていた。 「こんな夜遅くに何をしているんだ?」 「申し訳ございません、道に迷ってしまって・・」 「そうか。確か君は、リリア様付の・・」 「ヴァイオレットと申します。あなたは・・」 「ユリキスと申します。お部屋までお送り致しましょう。」 「いいえ。」 「そうですか・・」 ユリキスはそう言うと、少し残念そうな顔をして歳三の前から去っていった。 (何だったんだ、あれ?) 翌朝、歳三は王宮内の教会で行われる聖体拝領のミサに参加していた。 「いつ見ても素敵な方・・」 「お美しいわ・・」 (何だか、目立ちたくないんだがな・・) そう思いながら歳三が、ミサが終わるのを待っていると、フェリシティが数人の女官達と何処か気難しい表情を浮かべて何かを話している事に気づいた。 (何が・・) 「フェリシティ様、ヴァイオレットです。」 「来てくれてありがとう。」 「えぇ。少し揉め事に巻き込まれてしまってね・・」 「揉め事、ですか?」 「そう。実は・・」 フェリシティは、歳三に今王宮内で起きている後継者問題について話し始めた。 「王妃様には、王太子様であるグレゴリー様御一人のみ。」 「確か王太子様には、アリシア様という婚約者がいらっしゃるのでは?」 「えぇ、そのようなのだけれど・・」 「何か問題でも?」 「アリシア様にはガレリアに嫁いだ姉君が居らしたのだけれど、トーガがガレリアへと侵攻し、姉君様は・・」 「フェリシティ様、お辛いのなら・・」 「ガレリア王家の者達は、三歳の幼子に至るまで、一人残らず処刑されたわ。」 「そんな・・」 「トーガは、軍事力をここ数年強めて、近隣国を侵攻しては植民地化していったわ。」 「アリシア様、今どちらに?」 「アリシア様は、ご実家で静養されているわ。姉君様を亡くされたショックが大きくてね。」 「そうですか。」 「グレゴリー様は、アリシア様の心の傷が癒えるまで、お傍に居るそうよ。でも、そのお二人の結婚に反対される方が居てね・・」 「どなたなのですか?」 「今は亡き王太后様のご側近でいらっしゃった、マルキス子爵様よ。あの方は、ご自分の娘を王太子妃にさせたいみたい。」 「まぁ、わたくし何も知りませんでした。」 「知らないのは当然よ。マルキス様は、王太后様亡き後、色々と妙な動きをされているという噂があるのよ・・」 「噂?」 「えぇ。何でも、トーガの過激派と繋がりがあるとか・・」 「まぁ・・」 「ねぇヴァイオレット、昨夜王宮の宝物庫前で見かけたけれど、何をしていたの?」 「中が気になってしまって・・でも、鍵が掛けられていたので・・」 「あの宝物庫には、歴代の王家が所有している宝飾品が保管されているわ。そんなに見たいのなら、明日見せてあげましょうか?」 「まぁ、よろしいのですか?」 「構わないわ。」 「とても嬉しいのですけれど、わたくし昼間は・・」 「わかったわ。わたくしが王妃様に夜でも宝物庫を見られるようにしておいてくれとお願いするわ。」 「ありがとうございます。」 翌日の夜、歳三はフェリシティと共に宝物庫へと入った。 その中には、美しい宝石を使われたティアラや王笏などが飾られていた。 その宝飾品の中で一番美しいのは、真珠とエメラルドで彩られた白金のティアラだった。 「美しいティアラですね。」 「えぇ。このティアラは、歴代の王妃様が戴冠式の時につけるものなのよ。」 「へぇ・・」 「あなた、その首に提げているネックレス・・」 「これは、わたくしの亡くなった母の形見なのです。」 「見せてくれないかしら?」 「どうぞ。」 フェリシティは、歳三からネックレスを受け取った。 そのネックレスは、美しいエメラルドが中央に嵌め込まれていた。 「素敵ね。」 「わたくしの母は、わたくしを産んですぐに亡くなりました。わたくしは、修道院附属の孤児院で育てられました。」 「お父様は?」 「わかりません。」 「そう。」 フェリシティは歳三と宝物庫の前で別れた後、エリスの部屋へと向かった。 「王妃様、フェリシティです、入ってもよろしいでしょうか?」 「どうぞ。」 フェリシティが部屋の中に入ると、エリスはアーサー王の物語を大きな刺繍布で刺繍していた。 「見事な刺繍ですわね。」 「ありがとう。」 そう言ったエリスの胸元には、歳三と同じ十字のネックレスが輝いていた。 「そのネックレス、素敵ですわね。」 「ありがとう。これはね、亡くなった子とお揃いで買ったの。産まれてすぐに手放さなければならなかったあの子と・・」 「十字の中央に、宝石が嵌め込まれたものですか?」 「えぇ。あの子のネックレスにはあの子の誕生石であるエメラルド、わたくしのネックレスには、わたくしの誕生石であるアメジストが中央に嵌め込まれているのよ。」 「珍しいデザインですわね。」 「グレゴリー様は、今どちらに?」 「あの子は、明日狩りをするから、ツェテの城館に泊っているわ。」 「まぁ、そうなのですか。」 「アリシア様とあの子の結婚は延期になってしまったけれど、わたくしはあの子が王となって善政を敷いてくれると信じているの。」 「わたくしも、そう思っています。」 「ありがとう。」 翌日、歳三がミサの準備をしていると、急に外が慌ただしくなった。 「一体、何が・・」 「王太子様が・・」 王宮の廊下を歩いていた歳三は、グレゴリーが狩猟中の事故に遭い、生死の境をさまよっている事を知った。 「グレゴリー、どうして!」 「王妃様、お気を確かに!」 ―これから、どうなるのかしら? ―このような事になるなんて・・ ―ねぇ、王太子様の事故は、マルキス様の仕業なんですってよ。 ―恐ろしいわ。 (王宮というのは、魔窟だな・・) グレゴリーは、数日後息を引き取り、アリシアも彼の後を追うように自害した。 にほんブログ村 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2021.10.11 22:09:26
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