テーマ:二次創作小説(947)
「薄桜鬼」の二次創作小説です。
制作会社様とは関係ありません。 二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。 土方さんが「夜にだけ女になる」という特殊設定です。苦手な方はご注意ください。 ―あぁ、何という事でしょう。 ―王太子様が・・ 度重なる悲劇に見舞われた王宮では、黒の喪服姿の貴婦人達が、扇子の陰でこの国の未来を話し合っているように見えた。 ―まぁ、これからはフェリシティ様がこの王国をお治めになるのかしら? ―女王もいいかもしれないわねぇ。 「エリス様・・」 「おお、神よ。何故わたくしから大切な物を奪うのです!?」 グレゴリーの棺に取り縋りながら、エリスはそう泣き叫んだ。 「痛々しい・・」 「王妃様のあのやつれたお姿、見てられないよ。」 やがてグレゴリーの棺に取り縋って泣いていたエリスは、そのまま気を失ってしまった。 「誰か、お医者様を!」 「王妃様、しっかりして下さい!」 エリス抜きで、グレゴリーとアリシアの葬儀が行われた。 「王妃様・・」 「トシ、二人の葬儀は・・」 「滞りなく終わりました。グレゴリー様とアリシア様の墓は、並んで建てられました。」 「そう・・」 「王妃様、暫くお休みになってください。」 「ええ、わかったわ。」 エリスは弱々しく呟くと、歳三の手を握った。 「トシ、王妃様のご様子は?」 「王妃様は精神的に疲れていらっしゃいます。」 「そうか。」 「では、俺はこれで失礼致します。」 歳三はフェリシティに一礼した後、エリスの寝室から出て行った。 グレゴリー、そしてアリシア・・この国の王家には、死の呪いが掛けられているのだろうか。 二人の葬儀を終えた日の夜、歳三は泥のように眠った。 ―トシ・・ 何処からか、自分を呼ぶ声が聞こえた。 ―ごめんね・・ ―王妃様、急ぎませんと。 ―どうか、優しい人に育てて貰ってね。 その人は、そう言うと赤ん坊に白貂のケープを掛けた。 (そうか、そんな事が・・) 「どうしたんだい、トシ?」 「すいません・・」 「体調が悪そうだね。王太子様の葬儀で疲れたのだろう。後はわたしに任せて、ゆっくり休みなさい。」 「はい・・」 珍しくヨーゼフに労わられた歳三は、そのまま教会を後にした。 何かを作ろうと思い、彼は生まれて初めて王都の市場へと向かった。 そこには、新鮮な魚介類や野菜、焼き立てのパンなどが並んでいた。 「いらっしゃい、新鮮なチーズがあるよ!」 「チーズには焼き立てのパンが一番さ!」 パン屋とチーズ屋の女将さんに半ば押し切られるような形で、歳三はパンとチーズ、そして新鮮なチーズを購入し、宿舎の部屋でそれらを使ってサンドイッチを作った。 (美味い・・) 少し食べたら、モヤモヤとした頭が徐々にスッキリしてきた。 昨夜、自分の夢に出て来た女性は、エリスだったのだろうか。 夢の中で見たあのケープは、確かに自分が赤ん坊の時に自分の上に掛けられていた物と同じ物だった。 歳三はクローゼットの中から、あの白貂のケープを取り出した。 そこには、白百合の紋章が刺繍されていた。 今は無理かもしれないが、エリスにこのケープの事を一度尋ねてみよう―そう思いながら歳三は目を閉じて眠った。 夢の中で、またエリスが歳三の前に現れた。 彼女は、何かを自分に言った後、涙を流した。 何故彼女が泣いていたのか、歳三はわからなかった。 「トシ、君にお客様だよ。」 「俺に、ですか?」 歳三が教会で仕事をしていると、そこへヨーゼフがやって来た。 「トシ、元気そうね。」 「シスター・テレサ!」 「あなたとは今まで連絡を取りたかったけれど、色々と事情があって・・」 「丁度よかった、シスター・テレサ、あなたにお聞きしたい事が・・」 「わたくしに?」 歳三はブランチを取る為に入ったカフェで、シスター・テレサに白貂のケープを見せた。 「これは、確か・・」 「最近、赤ん坊の頃の夢を見るんです。」 「夢?」 「はい、ここ数日。」 「そうなの。トシ、実はあなたに渡したい物があるの。」 「わたしに、渡したい物・・」 「えぇ。」 シスター・テレサは、持っていたバッグの中から一冊の本を取り出した。 「これは?」 「ガリウス様が生前、つけていらした日記帳よ。」 「ガリウス様の・・」 「その日記に、あなたが知りたい事が全て書かれていると思うわ。」 「ありがとうございます、シスター。」 「今は色々と大変だろうけれど、余り無理しないでね。」 「はい。」 カフェの前でシスター・テレサと別れた歳三は、教会に戻る途中、一人の女性に声を掛けられた。 「司祭様、どうかわたくしの話を聞いて下さい!」 「どうしましたか?」 「わたしは、罪を認めました!」 女性は突然そう叫ぶと、歳三の前に跪いた。 「落ち着いて下さい・・」 「わたしが、わたしがグレゴリー様の馬を驚かせ、グレゴリー様を死なせました!」 「それは、一体どういう・・」 「ひ、ひぃぃ!」 突然女性は何かに怯えるかのように白目を剥いて叫ぶと、突然車道へと飛び出した。 そこへ一台の馬車が走って来た。 「誰か来てくれ、人が・・」 「きゃぁぁ~!」 歳三は雑踏の中で、一人の男がじっと自分を見つめている事に気づいた。 「待て!」 歳三は慌てて追い掛けたが、男は雑踏の中へと消えていった。 「女は?」 「死にました。馬車に轢かれました。」 「そう。」 「お嬢様、これからどうなさいますか?」 「それは、お前には関係の無い事よ。」 「はい・・」 「女の近くに、誰か居なかったの?」 「司祭様がいらっしゃいました。白百合の刺繍をしたストラを身に着けておられました。」 「そう・・」 令嬢―アリシアは、そう言うとドレスの裾を払って立ち上がった。 「行くわよ、リサ。ミサの時間に遅れてしまうわ。」 「はい、お嬢様。」 教会に戻った歳三は、ミサが始まる前にガリウスの日記帳を開いた。 【王妃様はお美しい方だったが、幸せそうでなかった。】 ガリウスの日記には、エリスが中々妊娠しない事で周囲から冷遇され、精神的に病んでしまった事などが綴られていた。 そして、エリスに運命の出会いが訪れた。 彼は、東洋の島国から来た留学生だった。 【彼は、エリス様にハヤトと名乗った。ハヤトは、エリス様に自分の国の話をしていた。 エリス様は、彼と話している時だけ、いきいきとしていた。ハヤトはやがて、故郷へと帰っていた。】 そこまで日記を読み進めていた歳三は、自分が読んでいた頁に一枚の写真が挟まっている事に気づいた。 そこには、自分と瓜二つの顔をした男が写っていた。 (もしかして、この人が俺の・・) 「トシ、ミサの準備は出来たかい?」 「はい。」 歳三はガリウスの日記を自分の机の引き出しにしまうと、ミサへと向かった。 「お嬢様、あの方です。」 「まぁ、素敵な方ね。」 アリシアはそう呟くと、うっとりとした目で歳三を見つめた。 「リサ、“あの事”はまだ、誰にも知られていないわよね?」 「はい、誰にも。」 「そう。」 ミサが終わった後、歳三が事務室へと戻ろうとした時、彼は一人の令嬢に声を掛けられた。 「司祭様、わたくし、アリシア=ボードウィルと申します。」 「アリシア様、わたしに何かご用ですか?」 「あの、そのストラ、とても素敵ですね。」 「ありがとうございます。このストラは、自分で刺繍したものなのですよ。」 「まぁ・・」 「お嬢様、急ぎませんと。」 「では、またお会いしましょう。」 「ええ。」 (何かひっかかるな・・) 「ねぇリサ、彼の事を調べてくれないかしら?」 「はい、わかりました。」 「王妃様は、ミサにはいらっしゃらなかったわね、何かあったのかしら?」 「王太子様とその婚約者様が相次いでお亡くなりになられたので、床に臥せってしまったとの噂が・・」 「それは、お気の毒ね。」 そう言ったアリシアだが、その顔には笑みが浮かんでいた。 「お嬢様、一体何を考えていらっしゃるのですか?」 「まだ、お前には教えないわ。」 「そうですか・・」 主人の秘密主義に少しうんざりしているリサだったが、彼女が何か良からぬ事を考えていると、勘で解った。 「それにしても、王宮で囁かれているあの噂は本当なのかしら?ほら、夜にだけ絶世の美貌を持つ女官が現れるという・・」 「確めましょうか?」 その日の夜、アリシアはリサと共に王宮へと向かった。 昼は賑やかな王宮は、夜になると不気味な程静まり返っていた。 「幽霊でも出そうですね。」 「やめて!」 二人がそんな話をしていると、そこへ一人の女官が通りかかった。 その女官は、雪のような白い肌と、美しい黒髪と紫の瞳を持った、絶世の美貌の持ち主だった。 にほんブログ村 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2022.07.25 18:55:21
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