「薄桜鬼」の二次創作小説です。
制作会社様とは関係ありません。
二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。
「それ以上騒ぐと、警察を呼びますよ。」
千鶴は理不尽なクレームをつけて来た男性客に、研いだばかりの柳葉包丁を向けた。
「ひぃ、ごめんなさい!」
男性客は悲鳴を上げて店から逃げ出した。
「ねぇ、あんな事をしてもいいの?最近じゃぁ、SNSである事ない事言いふらすような人が増えているのよ。」
「構いません。」
昼間店で起きた事件の一部始終は、SNSで瞬く間に拡散された。
「トシさん、これはヤバイ展開になりそうな気がする。」
八郎はそう言うと、パソコンの画面を見た。
「千鶴、どうする?」
「どうするもなにも、わたし達は貝のように口を閉ざすだけです。どちらが悪いのか、それはすぐに明らかになります。」
千鶴の言葉は、すぐに現実となった。
彼女に包丁を突き付けられたクレーマー男は、最初はSNS上で同情されていたものの、次第に彼が吐いた嘘が明らかになり、現実社会でもネット社会でも総スカンを喰らい、姿を消した。
「ほらね、わたしの言った通りでしょう?」
「千鶴・・」
「さぁ、今日もお仕事頑張りましょうね、あなた。」
「あぁ・・」
GWが終わり、梅雨の季節を迎えた。
「今日も良く降るね、トシさん!」
「そうだなっ・・て、また来たのか、八郎!」
歳三がそう言って八郎を見ると、彼は焼き立てのアップルパイを頬張っていた。
「だって、トシさんが作るアップルパイ、美味しいだもん!」
「あなた、只今帰りました。」
「お帰り、千鶴。」
「伊庭さん、いらっしゃい。後でシナモンクッキーを焼いて差し上げますね。」
「やったぁ!」
「千鶴、いつの間に八郎と仲良くなったんだ?」
「ふふ、それは秘密です。」
(何だか気になるな・・)
そんな事を思いながら歳三が厨房で店の仕事をしていると、店のドアベルが鳴った。
「いらっしゃいませ。」
「久しいな、千鶴。」
そう言いながら店に入って来たのは、かつて千鶴を苦しめた帝だった。
「てめぇ、何しに来やがった!?」
「誰かと思ったら、あの時の狐か。」
蛇のような冷たい目をしながら、帝は歳三を見た。
「退け、余は千鶴に用がある。」
「帰れ!」
歳三は塩が入った瓶を掴むと、その中身を帝にぶち撒けた。
「また来るぞ。」
「二度と来るな!」
帝が店から去った後、千鶴は床に蹲って震えていた。
「千鶴、大丈夫か!?」
「わたし、わたし・・」
「暫く店を閉めよう。」
歳三はそう言うと、千鶴の背を優しく撫でた。
「主上、どちらへ行っていらしたのですか?」
「そなたには言えぬ所だ。」
「まぁ・・」
帝の帰りを待っていた明子は、そう言って笑った。
「それよりも明子、余が留守にしていた間に、何かあったか?」
「いいえ。」
「そうか。」
寝室へと消えてゆく帝の背中を、明子は静かに見つめていた。
「明子様、お呼びでしょうか?」
「あの九尾の狐が今何をしているのか探れ。」
「へぇ・・」
明子は金が詰まった袋を式神に手渡した。
「頼んだぞ。」
式神は明子に深く頭を下げると、煙のように掻き消えた。
(さて、これからどうしようか・・)
帝が、“華カフェ”に来店してから、千鶴は床に臥せるようになった。
「千鶴、大丈夫か?」
「ありがとう、あなた。」
「余り無理をするな。」
「はい・・」
歳三が店の前の道路を掃いていると、そこへ一台のリムジンが停まった。
「見つけたぞ、九尾の狐。」
「お前ぇは・・」
「共に来て貰うぞ。」
リムジンから降りた女は、そう言って氷のような瞳で歳三を見た。
「今更俺に何の用だ?」
「それは今から話す。」
謎の女に半ば拉致されるようにリムジンに乗せられた歳三が彼女と向かったのは、銀座にある高級テーラーだった。
「俺をこんな所まで連れて来て、どういうつもりだ?」
「さぁな。」
「あなた、浮気しましたね?」
「ひぃ!」
ゆらりと、自分の背後に幽鬼のように立っている千鶴を見て、歳三は情けない悲鳴を上げた。
「お前・・」
「さぁ、あなた・・お覚悟・・」
「そなたが、狐の嫁か?安心せよ、そなたの夫には手を出さぬ。」
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