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コチラからお借りいたしました。
「火宵の月」「薄桜鬼」の二次創作小説です。
作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。
二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。
1905年、元日。
「お祖父様、新年明けましておめでとうございます。」
「今年もよろしくお願い致します。」
「あぁ、よろしく頼む。」
土御門家で、有匡は家族でお節を囲みながら新年を祝っていた。
「毎年こうして集まるのも、悪くないな。」
「そうですね。」
華はもうすぐ満一歳を迎えようとしている息子をあやしながら、父がもうすぐ古希を迎えようとしているのに、全く老けていない事に気づいた。
「不老不死と鬼の血は、関係があるのでしょうか?」
「さぁ、聞いたことがないな。」
有匡はそう言うと、孫を抱いた。
「名を何とつけた?」
「輝匡(てるまさ)です。」
「良い名だ。それよりも、何やら世間がきな臭くなっているな。」
「そうですね。」
「父上、遅くなりました!」
そう言いながら息を切らして大広間に入って来た仁は、有匡の隣に座った。
「色々と立て込んでおりまして・・」
「新年を迎えると、羽目を外す連中が居るからな。」
「それもありますが・・最近、上司から縁談を次々と持ち込まれて、困っております。」
「何を困るものか。」
有匡は漸く息子に春が来たと思い、微笑んだ。
「わたしは・・僕は理想が高いのです。それに、今は結婚など考えた事は・・」
「先斗町の白雪という芸妓とは、別れたのか?」
「な、何故それをっ!」
「妹から色々と聞いている。」
「それに、わたくし達も居るから、この家で隠し事は出来ませんよ、仁。」
「はぁぁ・・」
仁は乱暴に髪を掻き毟りながら、溜息を吐いた。
「白雪とは、そのような仲ではありません。同じ趣味を持つ者同士、親しくなっただけで・・」
「お前は動揺する時、いつも平静を装っているが、猪口を持つ手が震えているぞ。」
「鉄面皮の父上とは、違います。」
「新年早々、嫌味は辞めろ。」
「わかりました。では、新年の祝いに、和琴でも弾きましょう。」
「正月らしいな。わたしは横笛でも吹くか。」
仁が和琴を奏で、有匡が横笛を吹いていると、その音色に誘われるかのように、土御門家に一人の女がやって来た。
「すいまへん、誰か居てはりまへんやろうか?」
「まぁ、どちら様ですか?」
華が玄関先で女を出迎えると、彼女は黒紋付きの着物姿に、髪には鼈甲の簪を挿していた。
「うちは、先斗町の白雪と申します。こちらに、土御門仁様はご在宅でいらっしゃいますか?」
「さぁ、こちらへどうぞ。兄ならば、大広間にいらっしゃいますわ。」
華は半ば強引に、女―白雪を大広間へと連れて行った。
「仁様・・」
「白雪、お前どうして・・」
「お会いしたかった!」
白雪はそう言うと、仁に抱きついた。
「白雪、京に居る筈では・・」
「うちを身請けして下さい、仁様!」
「え、ええっ!」
仁が突然の恋人の困惑に来訪しながら有匡の方を見ると、彼は仁にこう言った。
「もう年貢の納め時だぞ、仁。」
元日に白雪に半ば押し切られるような形で求婚され、彼女を身請けし仁が祝言を挙げたのは、奇しくも有匡が古希を迎えた日だった。
「仁、白雪殿と幸せにな。」
「はい。」
「白雪殿、仁は優柔不断な所があるが、よろしく頼む。」
先斗町で名妓と謳われた白雪を、仁が身請けした事は大きく新聞で報じられた。
「白雪さん、小姑が居て気を遣うでしょうが、よろしくお願いしますね。」
「へぇ。」
気が強い姉と妹に挟まれ、白雪が二人と上手くやっていけるのか心配していた仁だったが、それは杞憂に終わった。
「白雪、辛い事があったら、この家を出て二人で暮らそうか?」
「仁様、おおきに。そのお気持ちだけで充分どす。」
「そ、そうか・・」
「うちは、早うに親を亡くして、ずっと寂しかったんどす。でも仁様とお会い出来て、夫婦になって嬉しい。」
「白雪、共に白髪が生えるまで生きような。」
「へぇ。」
一度も喧嘩らしい事をした事が無い位仲睦まじい仁と白雪だったが、中々子を授からぬ事が、二人にとっては悩みの種だった。
「子は夫婦を繋ぐ鎹と言うが、子を持つ事が全てではない。」
「父上・・」
「御免下さい、土御門仁様はこちらにご在宅でしょうか?」
「はい、僕が土御門仁ですが・・」
「市役所の者です。この度はおめでとうございます。」
そう言って役人が仁に手渡したのは、赤紙だった。
「嫌や、行かんといてっ!」
「僕だって、君を置いて戦場へ行きたくない。けれど、仕方無いんだ。」
「仁、これを。」
出征前夜、仁は有匡から美しい紅玉の指輪を手渡した。
「これは?」
「お祖母様の形見だ。お前に幸運を運んでくれるだろう。」
「ありがとうございます、父上。」
「必ず、生きて帰って来いよ。」
「はい・・」
翌朝、仁は家族に駅で見送られ、戦地へと旅立った。
「白雪殿、仁は必ず約束を守る男だ。」
「へぇ・・」
白雪が有匡をそう励ましていると、そこへ澪がやって来た。
「澪殿、どうされたのです?」
「恵心尼様が・・」
長く肺を患っていた恵心尼が危篤状態に陥り、有匡と白雪が聖心寺に駆け付けると、彼女は奇跡的に意識を取り戻した。
「恵心尼様・・」
「わたくしは、実に良き・・人生を・・」
「どうか、安らかな眠りについて下さい。」
恵心尼は、一足先に神が待つ天国へと旅立った。
「この寺は、わたくしがお守り致します。」
「澪殿・・」
「きっと、恵心尼様は天から我々を見守って下さる事でしょう。」
「わたしも、そう思います。」
ふと有匡が空を見上げると、そこには一際美しく輝く星があった。
(恵心尼様、また会いましょうぞ・・)
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