「それは一体どういう・・」
「わたくしの本当の名は、シン。タンダ出身です。」
「タンダ?もしかしてあのタンダ?」
エリスはそう言ってシンを見た。
「そう。わたくしの家族はあそこで殺され、故郷を破壊されましたの。わたくしはみんなの仇を討つ為に、ここにいるのです。」
シンー皇女ユリノの告白に、エリスは衝撃で立っていられず、地面にへたり込んだ。
「どうして、わたしにそんな事をお話しになるのです?」
「あなたを心の底から信じているからです。あなたなら、わたくしの正体を秘密にしてくれると。」
真紅の瞳でシンはエリスを見つめながら、彼の下腹へと目をやった。
「あなた、妊娠してるのね?」
「ええ。でもわたしあこの子を育てるつもりはありません。」
「お相手はあの黒髪の軍人さん?」
エリスはシンの言葉に頷いた。
「セシャンとはもう会わないと決めたんです。彼には迷惑をかけたくないし・・」
「あなた、彼の為とか言っているけれど、彼から逃げたいのでしょう?」
「そんな・・わたしはそんなこと・・」
「なんだったらそちらの方に聞いてみる?」
シンはそう言うとセシャンを見た。
(今までの話、聞かれていた!)
硬い表情を浮かべたまま自分を見つめているセシャンの顔を、エリスはまともに見ることができなかった。
「エリス、どうして言ってくれなかったんだ?」
セシャンはそう言うなりエリスを抱き締めた。
「だってわたしの所為でお前の人生が台無しになるのは嫌だから・・」
「黙って俺の前から消えたのか?俺がお前を忘れるとでも?ふざけるな!」
セシャンはそう言うとエリスの頬を打った。
「どうしてお前は1人で抱え込もうとするんだ!」
「ごめん・・」
エリスはそう言うと涙を流した。
「両親は必ず俺が説得してみせる。だから結婚してくれ、エリス。」
「はい。」
そんな2人の様子を、シンは黙って見つめていた。
「あなた方が羨ましいわ。心の底から互いを愛し合っているあなた方が。」
シンはそう言うとちらりとエリスを見た後、薔薇園から去っていった。
「セシャン、本当にいいのか?わたしなんかと・・」
「いいに決まってるだろう。」
その後セシャンとエリスは、エリスの家族の前で自分達が結婚することを告げた。
「エリス、本気なの?」
エリスの母親はそう言ってエリスを見た。
「ええ、本気です。」
「そう、なら仕方ないわね。」
エリスの結婚を彼の両親は許してくれたが、セシャンの両親はこの結婚に猛反対した。
「あんな穢らわしい者を、伯爵家の嫁として認めるものですか!」
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