「“魔の力”って・・」
「恐らくあのユリシスが、アレクにあの焼き印を捺したんだろう。」
「何の為に?」
「君を手に入れる為に決まってるじゃないか。」
シンが振り向くと、そこにはユリシスが立っていた。
「ユリシス、わたしの夫に何をした!?」
シンがそう言ってユリシスを睨むと、彼はにっこりと笑った。
「別に。わたしは君を手に入れる為ならなんだってやるよ。」
ユリシスはシンの長い金髪を梳いた。
「わたしと共に来るのならば、君の夫を枷から解放してあげる。」
ユリシスはシンに手を差し伸べた。
「わかった、あんたについていく。」
シンはゆっくりと、ユリシスの方へと一歩近づいた。
「シン、罠かもしれぬぞ。」
コウはそう言うと、シンの手を掴んだ。
「あいつが何を企んでいるのかを知りたいんだ。セトナのことを頼む。」
シンはコウに微笑むと、彼の手を離した。
「お母様・・」
「すぐに帰ってくるからね。」
シンは不安がるセトナに微笑み、彼女の髪を撫でた。
「本当に、アレクを解放してくれるんだな?」
「勿論だよ。」
ユリシスは呪文を唱えた。
アレクがシンの後ろで倒れる気配がしたが、シンは振り向くことができなかった。
「さぁ、行こうか。」
夫や娘が心配だが、ユリシスに従うしか彼らの命はない。
彼が何を考えているのかはわからないが、彼に従うとシンが決めたのは、愛する家族を守る為だ。
いつか必ず、ユリシスに自分を苦しめた分を倍返しにしてやる。
「もう行こうか。」
ユリシスの手を握り締めたシンの顔に、迷いはなかった。
「シン・・」
次第に小さくなってゆくシンの金髪を、コウは切ない表情を浮かべながら見ていた。
一方、リシャムを制圧した南部軍の中に、蒼い布を被った銀髪の美女が丘の上に立ち、紅蓮の炎に包まれているリシャムの街を見下ろしていた。
彼女の真紅の瞳は、残酷な光を湛えていた。
風が吹き、彼女の頭を覆っていた蒼い布が風に飛んだ。
「やっと会えたね。」
ゆっくりと美女が振り向くと、そこには“同族”の姿があった。
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