『疲れたろう。』
『ええ。それにしても外は寒いのに、中は暖かいですね。』
『まぁ、オンドル(床暖房)が敷いてあるからね。風邪ひかないように柚子茶でもお飲みよ。』
『ではお言葉に甘えて、いただきます。』
清子が淹れてくれた柚子茶を、千尋は一口飲むと身体が温まった。
『もうキムチは大体漬け終わったから、後はゆっくり休んだほうがいいね。じゃぁあたしは部屋で休んでるから、何かあったら呼んどくれ。』
清子はそう言って立ち上がると、自分の部屋へと向かった。
千尋は柚子茶を飲みながら、テレビをつけた。
丁度ドラマの時間帯だったらしく、何かの連続ドラマが放送されていた。
暫く千尋がドラマを観ていると、誰かが戸を叩く音が聞こえ、彼女は部屋から出て外へと向かった。
『どなた?』
『こんにちは。おばさんは居ますか?』
玄関の扉を開けた千尋の前に立っていたのは、大学生と思しき青年だった。
『あの、あなたは?』
『あぁ、すいません。俺はユン=ギョランっていいます。大学のボランティアサークルで一人暮らしのお年寄りにお弁当を届けています。』
『そうですか、少々お待ち下さい。』
千尋はそう言うと、家の中へと入った。
『どうしたんだい?』
『すいません、外にユン=ギョランという方がお見えです。』
『そうかい。じゃぁ行ってくるよ。』
清子はそう言って部屋から出て行った。
千尋が飲み終わった湯?みを洗っていると、歳三からの着信があった。
「もしもし、トシ兄ちゃん?」
『千尋、今何処だ?』
「お祖母様の家よ。トシ兄ちゃんは今何しとうと?」
『今から会社の面接を受けるんだ。』
「そう・・頑張ってね。」
『終わり次第、そっちに行くからな。』
歳三との通話を終えた千尋がキッチンで水を飲んでいると、清子が入ってきた。
『誰からだったんだい?』
『歳三さんからです。今から面接を受けるって。終わり次第、こちらに来られるそうです。』
『そうかい。丁度弁当が届いたから、昼にしようか。』
『ええ・・』
弁当は豪華なものだった。
『これからは長く付き合っていくんだから、お互いに妥協しなきゃいけないときがあるよ。ヨンイルは、あんたのことを愛している。』
『そうですね。』
千尋はそう言うと、ナムルを食べた。
一方、面接を終えた歳三は寒さに身を震わせながら清子の家へとバスで向かっていた。
大学時代、こうして毎日バスに乗っていたなと思いながら、歳三は外の景色を眺めた。
すると、次のバス停で1人の女性が乗ってきて、歳三の方へとやって来た。
『先輩、お久しぶりです。』
窓から視線をふと外すと、1人の女性が自分に微笑んでいた。
(誰だ?)
『あの、どちら様ですか?』
『イ=ミジュです。先輩の1年後輩の。』
その名には記憶があった。
確か大学時代、所属していたテニスサークルでやたら熱心だった後輩が居た。
『ミジュか、久しぶりだな。今日はどうして?』
『就職の面接の帰りです。先輩もですか?』
『ああ。これから祖母の家に向かうところなんだ。もしよければ、君も来るかい?』
『いいんですか?』
(そろそろ帰ってくる頃かな・・)
千尋がそう思っていると、外から扉が開く音がした。
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