韓国で暮らすと歳三は決めたものの、今すぐという訳にはいかなかった。
仕事のこともあるし、何よりも千尋達と住む家を探さなければならなかった。
「家はわたし名義のマンションがあるから、そこに住めばいい。セキュリティ対策も万全だからな。一度見に行ってみるか?」
「わかったよ。」
訪韓3日目は、隼人名義のマンションの下見と、周辺の生活情報を収集することで費やされた。
マンションの立地は地下鉄の駅に近く、歩いて5分ともかからないところに大型スーパーや児童館などがあり、好条件だった。
「どうする?他に候補があるなら、そこも見てみないか?」
「あぁ、そうだな。」
千尋と共に歳三は、他に住みたいと思っていたマンションの下見をしたが、どれも余り条件が良くなかった。
「どうする?お義父さんのマンションに決める?」
「あぁ。あんなに良い条件のマンションはどんなに探してもないからな。」
こうして、新居はすぐに決まった。
「トシ、住むところが決まったのはいいが、子ども達のことはどうするんだ?幼稚園はもう探したのか?」
「まだだ。娘達はまだ生後3ヶ月だから、気楽に探すよ。」
「甘いな。ここの地区の幼稚園探しは早めにしないと入園が決まらないぞ。」
「ふぅん、そうなのか・・でも探そうたって、どう探せばいいんだ?」
「出来るだけスクールバスで送迎してくれるようなところがいい。それに英語教育がある所だ。」
「英語教育だって?冗談言うなよ、親父。あいつら英語どころか日本語も喋る時期じゃねぇんだぜ?」
「この国では、小学生でも語学留学するのが当たり前なんだ、トシ。そのための準備だよ。それに、生まれてすぐに予約をしないとなかなか良い条件の幼稚園には入れない。遅れを取ったら終わりだ。」
「ったく、気が抜けねぇよ・・」
歳三は韓国で生活するにおいて、早めに行動することが大事だと思い知らされた。
「取り敢えず、この書類に一旦目を通して、契約書にサインをしてくれ。」
「ああ、わかった・・」
歳三は隼人から渡された書類に目を通したが、ハングルで書かれていて全く読めなかった。
「なんだよ、これ?日本語の書類はないのか?」
「トシ、今からでも遅くないから、韓国語を学べ。お前や千尋ちゃんは韓国語を話せることは出来るが、読み書きが出来ないとなると色々と不便だ。」
「なんだか気が遠くなりそうだぜ・・」
「そうだ、これだけは言っておかないとな。今の時期のソウルは寒いから、体調管理に気をつけること。」
隼人からのアドバイスを歳三はメモを取りながら、千尋と娘達の教育について話し合った。
「観光ならいいけど、実際暮らすとなると大変なんやね。」
「ああ。でも乗り越えないといけない試練なんだそうだ。」
「一度決めたことやから、途中で投げ出すことはできんしね。一緒にがんばろう。」
「ああ。」
歳三は千尋を抱き締めると、少し勇気が湧いた。
『そうかい、ヨンイル達がここで暮らすことになったのかい。』
『ええ。でも二人にはまだまだ慣れないことが多いでしょう。お母さん、千尋ちゃんに法事のことを色々と教えてやってくださいね。』
『わかってるよ。あの子は娘同然だからね。退院次第、家事を仕込んでやるともさ。』
清子はそう言って屈託のない笑顔を浮かべた。
数日後、退院した清子は早速千尋にキムチの漬け方を教えた。
『白菜はよく洗って、中が黒くなっていないか見るんだ。漬けるときはちゃんとゴム手袋をつけな。決して目を擦るんじゃないよ。』
『はい、わかりましたお祖母様。』
『まだまだ解らないことが多いだろうけれど、慣れれば大丈夫だ。』
清子に教わりながら、千尋はキムチを漬け、終わる頃には額に汗が滲んでいた。
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