「おはようございます。」
「おはようございます。」
千尋が団地の自治会に出席すると、同じ棟に住む数人の主婦達が彼女の方に駆け寄ってきた。
「ねぇ土方さん、ブログに書かれていることは本当なの?」
「ええ。」
「でも吉田さん、かなり怒っていたみたいよ。名誉毀損であなたを訴えるって!」
「名誉毀損って・・先にあっちがわたしを中傷してきたんじゃない!冗談じゃないわ!」
「それはそうだけど・・」
千尋の剣幕に主婦達はたじろぎ、その後自治会が終わるまで何も言わなかった。
「あ~、もう腹立つ!」
「どうしたんだ、千尋?」
帰宅するなりノートパソコンを起動した千尋が浮かべている顔を見て、歳三は何か起きたのだなと解った。
「吉田夫人、うちが書いたブログの内容を見て名誉毀損で訴えるって!向こうが先に仕掛けてきたっていうのに!」
「おい、落ち着けよ。感情的になったって仕方ねぇだろ?」
「でも・・」
千尋がブログのコメント欄を見ると、そこには彼女に対する励ましのコメントで溢れていた。
「向こうがどうこう言おうが、うちは絶対に負けない!」
「少し散歩してくるから、その間に頭を冷やしておけよ。」
千尋にそんな事を言っても無駄だと知りながらも、歳三はそう言うと部屋から出て行った。
(ったく、どうなってんだか・・)
歳三が団地内を歩くと、各所にある掲示板に千尋を中傷するビラが所狭しと貼られていた。
“土方千尋は中洲でホステスをしていた頃、ヤクザの男と付き合い、妊娠した子どもを中絶した。”
“千尋の母親はヤクザの愛人で、時折団地に来ては金の無心に来ては騒ぎを起こす。”
ビラに書かれている内容はどれも事実無根のものだ。
吉田夫人は一体何をしたいのだろうか。
歳三は団地内のビラを一枚残らず剥がしまわった。
『パパ。』
『どうした、薫?』
最近家に籠もり、塞ぎこんでいた薫が、自転車に乗りながら歳三の方へと向かってきた。
『今日ね、みんなと公園で遊ぶんだ。』
『そうか。あれからどうだ?みんなと仲良くなった?』
『わたしをいじめてる子達とは、仲良くしてる。じゃぁ行ってくるね。』
『気をつけろよ!』
去り際自分に手を振った時に浮かべた娘の笑顔を見て、歳三は少し沈みがちだった気分が少し明るくなった。
「ただいま。」
「お帰りなさい。それ、どうしたと?」
「掲示板に貼られてたから、剥がしてきた。薫は公園で友達と遊ぶってさ。」
「ふぅん。心配してたけど、仲良くやっているようで良かった。千尋、昼はどうする?お前は疲れているようだし、俺が簡単に作るよ。」
「ありがとう。」
歳三が冷蔵庫を開けると、そこには余り食材が残っていなかった。
「スーパーに行ってくる。」
「気をつけてね。」
歳三が駐輪場で自転車に跨り近所のスーパーへと行こうとすると、薫が数人のクラスメイト達と公園で遊んでいた。
暫く様子を見ていると、ブランコの方から1人の女児が薫達の方へと走ってきた。
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