「土方さん、ちょっと宜しいですか?」
「ええ、構いませんが。」
参観日が無事終わり、千尋が一旦着替えをしてバイト先へと向かおうと帰宅しようとしたとき、薫達の担任が彼女を呼び止めた。
「何でしょうか?」
「あの、あなたのことで保護者の方々の間で妙な噂が立っているようなんです?」
「あの噂なら事実無根です。急いでおりますので・・」
「あなたが以前ブログで書かれた噂とは違うものが、広まっているのです。土方さん、どうか保護者懇親会に出席なさってくださいませんか?」
「わかりました。」
やけに担任の言葉が気になった千尋は、バイト先に急用が出来て休むことになったと連絡した後、保護者懇親会に出席した。
「それで、噂というのは?」
「実は・・今朝学校にこんなFAXが届いたんです。」
担任はそう言うと、一枚のFAXを千尋に見せた。
そこには、歳三とソンヒが仲良く写っている写真が貼り付けられ、2人は不倫関係にあると書かれていた。
「こんなもの、一体誰が?」
「匿名のものなので、どなたかは・・」
「まさか、あの方ですか?」
千尋の言葉に、担任は気まずそうな顔をした。
「吉田さんと今回のこととは関係ありません。それよりも土方さん、最近保護者の方から不満が出ているんですよ。」
「不満?」
千尋がそう言って片眉を上げると、一人の保護者が椅子から立ち上がった。
「土方さん、お仕事が忙しいのはわかるけれど、もう少しPTAに参加して貰えないかしら?」
最近ファミレスのバイトのほかに、ネットショップを立ち上げた千尋は仕事と家事、育児で忙しく、PTAにまで手が回らなかった。
「私たち、育児や家事をしながらPTAの仕事もこなしているんですよ。でも今の人数では限界なんです。一度ご主人と話し合っていただいて、PTAに参加して貰える様に言ってくださらないかしら?」
千尋が他の保護者たちを見ると、みな一様に頷いていた。
「PTAかぁ・・最近職場で謹慎食らったから、ちょうどいいや。」
「職場で謹慎って・・確か、ヤクザの息子絡みで問題起こしたことと関係があると?」
「ああ。社長は悪くないと言ってくれたんだが、相手が相手だからな。」
「そう・・」
夫が職場で謹慎処分になったことや、また新たな噂が町内に広がりつつあることに、千尋は不安を隠せなかった。
千尋はその夜、溜息を吐きながらノートパソコンの電源を入れてネットショップへと接続すると、一通のメールが届いていた。
(誰からやろか?)
何気なく千尋がメールを開くと、宛先人は歳三の学生時代の後輩・ミジュからだった。
“チヒロさん、お久しぶりです。最近日本に来ることになりました。”
ミジュが日本に来ることを初めて知った千尋は、すかさず彼女のメールに返信した。
“そう、驚いたわ。最近忙しくて会えないけれど、明日は時間があるの。あなたさえよければ、お茶でも飲みながらいろいろと話したいわ。”
千尋は「送信」ボタンを押し、仕事に打ち込んだ。
翌朝、彼女がノートパソコンの電源を入れてメールを確認すると、ミジュからのメールが来ていた。
“わたしも大丈夫ですよ。仕事が午前中に終わるので。”
その日の昼、都内のカフェで、千尋はミジュと久しぶりに会った。
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