クリスマスが過ぎ、悠は美津子達と実家の大掃除に追われていた。
「今年の汚れは今年のうちに取らないとね!」
「ママ、何もこんなことする必要ないだろう?ハウスキーパー達に任せればいいじゃないか?」
悠の弟・大輔はそう言うと口をへの字に曲げた。
「何言ってるの、大輔。必要最低限のことは自分ですることが大切なのよ。何でもかんでも他人任せにしたら、生活が成り立たなくなっちゃうわ。」
「僕の友達が、うちの家が特殊だって言ってるの、知ってるだろ?金持ちなのにハウスキーパーも運転手も雇わないなんて、おかしいって。」
「そんな子には、勝手に言わせておけばいいのよ。家事を使用人に任せて、リビングのソファでふんぞり返っている金持ちの時代はもう終わったのよ。顎で人をこき使うことが、金持ちのステイタスじゃないわ。」
大輔の不平不満を、美津子は一蹴し、二階の掃除へと向かった。
「パパ、何とか言ってよ。僕こんなことするの、嫌だよ。」
「大輔、まだ物置の掃除が終わっていないだろう?」
「何だよ、パパもママの味方をするの?」
大輔は父親が自分の味方にはなれないとわかったので、拗ねた顔をしながらリビングから出て行った。
そんな彼の背中を見ながら、弟はちっとも変わっていないなと悠は思った。
「悠、正月は日本に戻るか?」
「今考え中。それよりも学校のことで色々としないといけないことがあるんでしょう?」
「ああ。もう今の学校には居られなくなった。」
父からその言葉を受けた悠は、顔が強張った。
「どういうこと?」
「あそこが英国の中でも厳しい寄宿学校だというのはお前も知っているだろう?成績面は問題ないといわれたが、あんな事件があって、学校側は素行調査をしたそうだ。」
「それで?」
「こんなことはお前に言いたくはないんだが・・学校側はお前を退学処分にすることで決定したそうだ。」
「ふぅん、そうなんだ。あの学校、前から嫌だと思ってんだよ、教師達が規則にうるさくて。あ、俺自分の部屋を掃除してくるね!」
狼狽しているのを父には見せまいと、悠はそそくさと二階へと上がり、自分の部屋のドアを閉めると溜息を吐いた。
名門と言われるあの学校に入るまで、今まで自分がしてきた血が滲むような努力を、全否定されたような気がして悠は嗚咽した。
あの学校に通いながら、いずれは大学に入り、ジャーナリストとなることが悠の夢だった。
だがその夢は、水泡のように無残に砕け散ってしまったのだ。
「悠、パパが呼んでるわ。」
「わかった、すぐ行くから!」
涙を手の甲で拭い、悠は部屋から出て一階へと降りていった。
「こんなものがお前に届いたんだ?」
「そう。ありがとう。」
父から受け取ったのは、中国からのエアメールだった。
悠がペーパーナイフでエアメールの封を切り、中身を取り出すと、そこには一通の招待状があった。
“ユウ=キノシタ様、このたびわたくしどもが経営するホテルが創立100周年を迎えましたので、特別なゲストとしてあなたをホテルに招待いたします。上海にて、お待ちしております。 陳”
悠の脳裏に、数週間前にパーティーであった青年の顔が浮かんだ。
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Last updated
2012.12.26 19:15:25
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