「何て招待状には書いてあったの?」
「上海のホテルから。創立100周年を迎えることになったから、俺に来て欲しいって。」
「そうなの。じゃぁ今年のお正月はあなた抜きで過ごすしかないのね、残念だわ。」
そう言って美津子は少し残念そうな顔をしていた。
「でもすぐってわけじゃないから、一緒にお正月は過ごせると思うよ。」
悠はそう言いながら、上海のホテル創立100周年パーティーの日時を確認した。
パーティーは、3月20日となっていた。
「いつだって?」
「3月20日だって。」
「そう、よかったわ。新年早々、離れ離れになるんじゃないかと思って不安になっちゃったけど、わたしの早とちりだったのね。」
美津子はそう言って笑顔を浮かべた。
正月三箇日を実家で過ごした悠は、翌日ジェファーと住むアパートへと戻り、荷造りを始めた。
「どうしたんだ、帰ってきてから急に荷造りなんかして?」
「こんなものが俺に届いてね。」
ジェファーに招待状を見せると、彼はジーンズのポケットから同じものを取り出して悠に見せた。
「俺のところにも届いたぞ。お前も行くのか?」
「うん。ねぇ、これからどうするの?」
「そうだなぁ、もう道路工事のバイトは終わっちまったし、このまま無職という訳にもいかないなぁ。」
ジェファーは頭を掻きながら、ソファに腰を下ろした。
「実は俺も、学校退学処分になったんだよね。」
「何だって、それは本当なのか?」
「うん。俺さ、あそこでしっかり勉強して、大学に行ってジャーナリストになるのが夢だったんだ。でも、それもなくなっちゃった。」
「簡単に諦めるな。何もここの大学でなくても、ジャーナリストになるのは何処でもできるだろう。」
「そうだね。発想の転換が大事でよく本に書いてたもんね。何も学校を退学処分になっても、自分の気持ちしだいで夢を追えるもん。」
悠はジェファーの言葉で、マイナスに傾きかけていた心がプラスへと大きく傾いた気がした。
「じゃぁ、二人で上海に行くか?」
「そうだね、行こう!向こうで何かがあるかもしれないしね。」
「たとえば?」
「う~ん、新しいロマンスとか?」
「それもあったら面白いがな。」
ジェファーはそう言うと、笑った。
正月を過ぎるとバレンタイン、ホワイトデーと月日は瞬く間に過ぎてゆき、悠とジェファーはヒースロー空港で家族に見送られながら上海へと発とうとしていた。
「ジェファーさん、悠のことを宜しくお願いしますね。」
「わかりました、心配しないでください。」
「あんた、身体には気をつけるのよ。」
「わかったよ、じゃぁ行ってきます!」
別れを惜しむ家族に手を振りながら、悠とジェファーは上海へと旅立っていった。
運命を刻む時の針が、大きく動いた瞬間だった。
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「麗しき狼たちの夜」は、暫く更新を停止いたします。
2013年最初の作品は、「金の鐘を鳴らして」。
戊辰戦争後、辛酸を舐めた一人の会津藩士の子・正義は、大いなる夢を抱いて渡英し、そこで様々な人々と出会う・・という作品です。
19世紀末のイギリスを舞台にした物語です。
一部「黒衣の貴婦人」のヒロイン・歳三が登場する予定ですので、お楽しみに。
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Last updated
2013.01.07 17:42:27
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