「年末年始の忙しくなる時に、取材を引き受けてくださってありがとうございます。」
東京駅から降りて、陽千代はテレビ局で番組のプロデューサー・内田と打ち合わせをしていた。
「いいえ、京都の為になるんやったら、お安いご用どす。」
「そうですか。では早速で申し訳ないのですが、今夜パーティーがホテル・アカシアであるのですが、出席して頂きませんか?」
「わかりました。パーティーに出るんもうちらの仕事ですさかい。」
陽千代がそう言って内田に微笑むと、彼は安堵の溜息を吐いた。
「いやぁ、急に番組のメインキャスターの方が、急用が出来たと言ってパーティーの出席をキャンセルしてきたんで・・」
「そないな事があったんどすか。」
「申し訳ないです、番組の打ち合わせの為に来て頂いたのに、まるでホステスのような仕事をさせてしまうことになるだなんて・・」
「そんなに謝らんといてください。パーティーは何時からどすか?」
「打ち合わせが終わるのが6時なので、終わった後にすぐ局を出たら8時のパーティーに間に合います。」
「そうどすか。ほな、打ち合わせをはよ進めまひょ。」
内田との打ち合わせを済ませた陽千代は、彼と共にテレビ局を出て、パーティー会場であるホテル・アカシアへと向かった。
「あなたが、祇園町の陽千代さんですか?初めまして、番組のディレクターを務めます、石川と申します。」
「どうも、陽千代どす。宜しゅうお頼申します。」
「一緒に京都の良い所を盛り上げていきましょう。」
「へぇ。」
石川と固く握手を交わした陽千代の姿を、敏明の第一秘書・明田が見ていた。
「何、陽千代がテレビ局のディレクターとプロデューサーと一緒に来ている?」
「はい。どうされますか、社長?」
「どうするもなにも、彼らは正式な招待を受けたゲストだ。無下にする訳にはいかんよ。」
この場で陽千代と再び会う事になろうとは、何という運命の悪戯だろうかと思ったが、敏明は気を取り直して陽千代の元へと挨拶に向かった。
「佐々木社長、どうも御無沙汰しております。」
「陽千代さん、またあなたと会えるとは思わなかったよ。どうしてここに?」
「今度、東光テレビのドキュメンタリー番組で取材を受けることになったんどす。」
「そうか、頑張ってくれよ。」
「おおきに。ほな、また後で。」
陽千代はそう言って去り際に、敏明の手に小さく折り畳んだメモをさりげなく握らせた。
「社長、どうされたんですか?」
「いや、何でもない・・」
メモには、“うちはもう、全てを知ってます。パーティーが終わった後、27階のバーでお待ちしております。”と書かれていた。
「わたしも、参りましょうか?」
「いや、いい。これはわたしと陽千代・・いや、松本陽太郎と二人だけで決着をつけることだ。お前達は手を出さないでいい。」
「わかりました・・それでは、失礼致します。」
(来たければ来るがいい、わたしは何も恐れはせん。)
パーティーは夜10時に終わり、陽千代に指定されたバーへと敏明が向かうと、奥のカウンター席に陽千代は座って彼を待っていた。
「来てくれはると思いました。」
「このメモは、一体どういうつもりで書いたんだね?」
「15年前の事件の真相を、うちはもう知ってしまったんどす。」
「それで?世間にでも公表するつもりなのか?」
「うちはそのつもりで、番組の取材をお受けしたんどす。もうあなたに逃げ場はありまへん。」
陽千代は勝ち誇った笑みを敏明に浮かべると、バーから出て行った。
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