「ユリシス様、その手はどうなさいました?」
「わからない。突然指輪が熱くなったんだ。」
ユリシスはそう言うと、焼け爛れた右手の薬指を見た。
「ユリノ様はどちらに?」
「それが・・何処にもお姿が見当たらないのです!」
「何だと・・」
「ユリシス様、大変です!ユリノ様のお部屋に置かれている首飾りと腕輪が・・」
ユリシスが兵士とともにシンの部屋へと入ると、そこには女官達が何やら慌てふためいた様子で首飾りと腕輪を手に部屋の中を行ったり来たりしていた。
「一体何があったんだい?」
「ユリシス様、これを見てくださいませ!」
女官の一人がユリシスの前へと一歩進み出ると、彼に首飾りを見せた。
「これは・・」
首飾りの主役である美しい紅玉(ルビー)が無残にも砕け散っていた。
「腕輪の方は?」
「こちらの紅玉も砕けてしまって・・」
「誰か、首飾りと腕輪に触った?」
「いいえ。わたくし達が来た時には、もうこんな状態でした。」
「そうか、君達はもうさがっていいよ。わたしがこの事をユリノ様に報告するから。」
「はい、ではわたくし達はこれで失礼致します。」
(リンの魂を封じ込めた至宝が砕けたということは、彼女の魂が消えたということか?)
一方、エリスは鏡台の引き出しにしまっていた紅玉の櫛を取り出すと、それは無残にも砕け散っていた。
「何ということでしょう、至宝が砕け散るだなんて・・」
「不吉の前兆だわ・・」
「滅多なことを言うものではありません!」
「ですが女官長様、この城がいつ敵の手に落ちるのかどうかさえわからないのですよ!」
「そうですわ、そんな時に至宝が砕けるだなんて、絶対に悪い事が・・」
「二人とも、落ち着け。まだそうだと決まった訳ではないだろう。」
エリスがそう言って騒いでいる女官達を窘めると、彼女達はバツの悪そうな顔をして俯いた。
「この城は全力でわたしが守る。だからお前達は何も心配することはない。」
「取り乱してしまって、申し訳ありませんでした。」
「いや、いいんだ。」
エリスがそう言って女官達に微笑んだ時、一人の兵士が慌てふためいた様子で部屋に入って来た。
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