「ここでじっとしているんですよ。」
そう言って母は、自分をこの部屋に閉じ込めた。
扉が目の前で閉められてそれを開けようとしたけれど、幼い手で何度も押してもそれはびくともしなかった。
「かあさま、ここから出して。」
「あなたを出す訳にはいかないの。ごめんね・・」
泣きながら母に扉を開けてくれるように何度も懇願したが、母は頑として聞き入れてくれなかった。
やがて騒がしい金属が擦れ合う音と、男達の怒号が風に乗ってこちらへと向かってくる気配がした。
「良いですか、外で何が起こっても、ここから出てはなりませんよ。」
「どうして・・どうしてなの、かあさま?」
「お前を愛しているからよ。」
その時扉が開いて、母が自分の前に立って微笑んでいた。
いつも裾の長い美しい衣を纏っていた母は、男物の衣を纏っていた。
「これを。」
母はそう言って結いあげていた艶やかな黒髪に挿していた簪を自分に手渡してくれた。
一流の職人によって作られた、贅を尽くしたそれは、母のお気に入りだった。
「わたしを、忘れないで。」
母は膝を折って屈むと、自分に優しく微笑んだ。
「いたぞ、あそこだ!」
「かあさまっ!」
母は再び扉を閉め、外から激しい剣戟の音と、男達の怒号が聞こえた。
それは、遠い昔の記憶・・
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Last updated
2014.01.09 14:08:03
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