「何でしょう、今のは?」
「温室からですね。」
エドガーとステファニーは恐る恐る、温室のドアを開けて奥へと進んだ。
そこには放置され伸び放題の観葉植物の鉢がいくつも転がっていて、ムッとする熱気も相まってか、まるで熱帯のジャングルのような雰囲気を醸し出していた。
「気をつけてください。」
「わかりました・・」
奥に近づくにつれ、呻き声は段々近くなっていく。
暗闇の中で、ステファニーは拳銃を構え、ランプで辺りを照らした。
「助けてくれ・・」
そこには、痩せ細った褐色の肌をした男が苦しそうに喘いでいた。
彼の枯れ枝のような身体には、荒縄が食い込んでいた。
「どうなさったのですか?」
ステファニーは短剣で素早く男を縛めている荒縄を絶ち切ると、彼を抱き起こした。
「わたしは・・あいつらの実験台にされそうだった・・けれど、こうして隠れていた・・」
「あいつらとは誰なのです?」
「いかん・・それを言うと、わたしは殺されてしまう・・」
「わたしはあなた方を助けに来たんです。お願いです、真実を話してください。」
「わたしは・・恐ろしい事を・・」
男が次の言葉を継ごうとした時、彼の近くにあった観葉植物の鉢が銃弾を受けて粉々に砕け散った。
「まったく、余計な事をしてくれたもんだ。だから被験者は全員殺せと言ったのに。」
「あなたは、誰?」
怯える男を抱きながら、ステファニーは暗闇の中から現れた男の顔を見た。
月光に照らされた男の銀髪は夜風を受けて揺れ、勿忘草色の瞳は、冷たくステファニーを見下ろしている。
「あなたは・・」
「グレゴリー=ラスプーチン。ロシア宮廷お抱えの魔術師ですよ。」
「どうして、ロシアに居る筈のあなたが、フランスに?」
「それは、あなたの事を追って来たのですよ。ステファニーさん。」
「どうして、わたしの名前を知っているの?」
「さるお方に命ぜられて、わたしはあなたを抹殺するよう頼まれましてね。まぁ、わたしではなく、“彼ら”があなたと婚約者を始末してくださることでしょう。」
グレゴリー=ラスプーチンは、そう言うと指をパチンと鳴らした。
すると、建物の陰からゆっくりとあの化け物たちがぞろぞろと出て来た。
「わたしの愛しい子ども達の遊び相手をして貰いますよ、ステファニーさん?」
「待ちなさい!あの男は・・レパードは何処に居るの?」
「あなたには、知らなくていいことです。」
グレゴリーはそう言って笑うと、温室から出て行った。
「どうします、ステファニーさん?」
「彼らを確実に殺すのは、頭を潰すしかありません。」
「そうですか。」
エドガーは近くにあったシャベルを掴むと、自分の背後に忍び寄っていたゾンビに向かって振り翳した。
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Last updated
2013.09.07 15:35:11
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