正英華凛が失踪して5年、彼の白骨化した遺体が琵琶湖畔で発見されたのと同時に、彼を殺害した女が逮捕された。
その女は、柏木満の妻、薫だった。
薫は事件前に華凛に対して一方的に想いを寄せており、彼が失踪した日の夜、夫が華凛と口論となり掴み合いになっているのを木陰から密かに見ていた。
そして夫が華凛のネックレスを奪って気絶させ、現場から立ち去って行くのを見た後、薫はそっと華凛の方へと近づいた。
「ねぇ正英さん、わたしと付き合わない?そしたらあのネックレス、取り返してあげてもいいわよ?」
「お断りします。わたしは、自分の手でネックレスを柏木さんから取り戻します。ですから、余計な事はしないでください。」
「何よ・・あんた一体何様のつもりよ!?」
こんな危機的な状況に陥ってもなお、自分に靡(なび)こうとしない華凛に薫は激昂し、咄嗟に近くの工事現場に置いてあった鉄パイプで華凛を撲殺した。
「あなた、助けて!あの人、殺しちゃった!」
動転した薫はすぐさま夫に電話を掛け、華凛の遺体を車のトランクに入れ、そのまま滋賀方面へと車を走らせた。
「何処行くの?」
「死体を捨てに行くに決まってるだろ!」
「あなた・・」
「お前が悪いんだからな!」
隣で泣き喚く妻にそう怒鳴ると、柏木は琵琶湖に華凛の遺体を投げ捨てた。
それが、5年前の事件の真相だった。
薫が警察で華凛殺害を自供したことにより、柏木は死体遺棄で逮捕された。
「叔父様は、悔しかったことでしょうね・・」
「そうだね・・でも遺体が見つかってよかった。もし遺体が見つからないままだったら、あの二人は殺人の罪を隠して平気な顔をしていつも通りの生活を送っていたかもしれない。きっと、君の死んだご両親やお祖父様が、二人に罰を与えたんだろう。」
「ええ・・」
華凛の遺体を引き取りに来た真那美は、槇とともに警察署の中へと入ろうとすると、突然二人の前に無数のマイクが突き出された。
「今回の事件をどのように思っていますか?」
「犯人に何か言いたい事があるのでは!?」
「通して下さい!」
槇がそう言ってレポーターを制止しようとした時、真那美は彼をキッと睨むと、彼の手からマイクを奪った。
「今回の事件について、犯人に言いたい事があります。わたしは生まれてすぐに両親を交通事故で亡くし、叔父と父方の祖父に育てられました。叔父は当時高校生でしたが、赤ん坊のわたしを必死に育ててくれました。わたしはそんな叔父を尊敬していました。京都を離れ、東京で暮らす叔父が時折京都に会いに来てくれることが、わたしにとっての唯一の楽しみとなりましたが、もう二度と叔父に会えないと思うと寂しいし、悔しい思いで一杯です。叔父を身勝手な理由で殺したあなたを決して許しはしません。」
真那美はそう言ってレポーターにマイクを返すと、槇に付き添われながら警察の遺体安置所へと向かった。
「叔父さんで、間違いないですね?」
「はい、間違いありません・・」
叔父の遺体が発見されたと真鍋に言われた時、覚悟を決めたつもりだった。
なのに、叔父の遺体を見た途端、真那美はショックと悲しみに襲われ、その場に蹲った。
「大丈夫かい?」
「ええ・・」
真那美はゆっくりと立ち上がり、そっと叔父の骨に触れた。
(お帰りなさい、叔父様・・)
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Last updated
2013.09.28 14:26:33
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