イラスト素材提供:十五夜様
ライン素材提供:ひまわりの小部屋様
翌朝、歳三が病院に出勤すると、何やら病院内が騒がしいことに気づいた。
「増谷先生、おはようございます。」
「土方先生、おはようございます。少し、こちらへ・・」
増谷医師はそう言って歳三に手招きすると、人気のない屋上へと彼を連れて行った。
「どうしたんですか、こんな所に呼び出したりして?」
「実は先程、第一外科の医局室が何者かに荒らされましてねぇ・・恩谷先生が机の引き出しに入れていた封筒がなくなってしまっていたんです。」
「その封筒の中には、お金が入っていたんですか?」
「ええ。恩谷先生は、土方先生が自分の金を盗んだ犯人じゃないかと言いだして・・」
「俺は何もしていませんよ!」
「僕は、土方先生の事を信じています。恩谷先生から何を言われても、毅然とした態度を取ってください。」
「わかりました。」
歳三が第一外科の医局室に入ると、恩谷医師の取り巻きである研修医達の鋭い視線が突き刺さった。
「おい、あいつだろ?」
「恩谷先生の金を盗んだのは・・」
「綺麗な顔をして、よくやるよ・・」
「土方先生、おはようございます。」
「おはよう。」
「恩谷先生が土方先生の事を悪く言っているようですが、気にしないでくださいね。」
「次の方、どうぞ。」
昼近く、診察室に入ってきたのは、一組の親子だった。
30代前半と思しき母親は、腕に3歳位の男児を抱いて今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「今日はどうなさいました?」
「先生、この子昨夜から咳が止まらんとです。それに、ご飯も水も吐いてしまって・・」
「そうですか。」
母親に抱かれている男児は、歳三が首に提げている聴診器を見て恐怖で泣き出した。
「すいません・・」
「いいえ、突然こんな所に連れて来られて、坊やも不安で仕方がないんでしょう。」
歳三は泣いている男児を優しくあやしながら、彼を診察した。
「微熱がありますし、咳が二週間以上止まらなかったらまた来て下さい。」
「はい。先生、ありがとうございます。」
「お大事に。」
午前中の診察が終わり、歳三が食堂で昼食を取ろうとそこへ入った時、隅の方のテーブル席に恩谷と彼の取り巻き達が座っていた。
「小母さん、親子丼ひとつお願い致します。」
「あいよ!」
食堂の小母ちゃんから親子丼を受け取った歳三は、恩谷達からなるべく離れた席に座った。
「土方先生、ここ宜しいですか?」
「どうぞ、熊谷さん。」
悠子は歳三の隣に腰を下ろすと、彼女はチラリと恩谷達の方を見た。
「どうしました?」
「あの人達、土方先生を一方的に泥棒扱いして・・ちょっとわたし、あの人達に・・」
「止めてください、熊谷さん。」
「土方先生は、悔しくないんですか?」
「あの人達が言う事にいちいち反応していたら、あの人達の思うつぼです。」
歳三はそう言うと、空になった丼の蓋を閉じた。
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