イラスト素材提供:White Board様
実家から女学校へと戻った千尋は、級友たちに囲まれながら楽しい学校生活を送っていた。
そんな中、千尋は授業中に校長から校長室に呼び出された。
『校長先生、土方です。』
『そちらへお掛けなさい。』
校長室に入った千尋は、来客用のソファに歳三が座っていることに気付いた。
「あなた、どうしてここに?」
「千尋、久しぶりだな。」
歳三はそう言って千尋に微笑むと、ソファから立ち上がった。
『あなたのご主人は、所用で暫く東京に滞在することになりました。』
『まぁ、そうでしたか・・』
『あなたのご主人の滞在を、特別に許可します。』
『有難うございます、校長先生。』
千尋は校長に向かって頭を下げると、歳三とともに校長室から出て行った。
「歳三様、東京ではどのようなご用でいらしたのですか?」
「実は、山梨に女学校を作らないかっていう話があってな・・俺や地主の太田さん達が中心になって、女学校設立の為に色々と活動しているんだが、俺が上京したのはその資金集めのためなんだ。」
「まぁ、そのようなお話があるなんて、知りませんでした。」
「毎日子供達に読み書きを教えていて、いつも思うことがあるんだ。教室に通っている女の子たちは、家の事情で止む無く教室を辞めて、遠い親戚の家で子守奉公をしたり、紡績工場の女工になったりする子が多くて、満足な教育が受けられない。そういう子達が平等に学べるような場所を、俺は作りたいんだ。」
女学校の中庭で歳三が千尋に自分の夢を語っていると、そこへ香織達がやって来た。
「土方さん、御機嫌よう。」
「御機嫌よう。皆さん、紹介するわ。こちらはわたしの主人の、歳三様よ。」
「初めまして。妻がいつもお世話になっております。」
「まぁ、素敵な方ね。」
香織はそう言うと、歳三を見てはにかんだ。
「ねぇ土方さん、ご主人とはどこで知り合われたの?」
「京都で知り合ったのよ。」
「何だかお似合いの夫婦ね。」
「まぁ、有難う。」
夕食の後、千尋は数か月ぶりに会った歳三と部屋で楽しい時間を過ごした。
「いつ、甲府に戻られるのですか?」
「一週間くらいここに滞在することになったから、来週の月曜までここに居ると思う。」
「そうですか・・」
「そうだ、子供達からお前宛の手紙を預かって来たぞ。」
歳三はそう言うと、子供達の手紙が入った風呂敷包みを千尋に手渡した。
「子供達は、元気にしていますか?」
「ああ。お前と仲が良かった清ちゃん、お父さんが病気で倒れて紡績工場で働くことになったよ。」
「まぁ、そうでしたか・・あの子はまだ、10になったばかりだというのに・・」
千尋は教え子の一人が家族の為に紡績工場の女工になったことを知り、心を痛めた。
「あの子は大丈夫だ、工場に行っても元気にやっているだろうさ。」
「そうですね・・」
“ちひろせんせいへ,おらは工場の女工になって、おかぁと弟たちに仕送りをしなければなりません。教室をやめるのはいやだけど、家族のためにはたらきに出るので文句は言えません。ちひろせんせい、東京の話を聞かせてください、清より”
「清ちゃん・・」
千尋は清の手紙を読み終えた後、そっとそれを胸に抱いた。
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