イラスト素材提供:White Board様
「一体何の用だ、こんな朝早くから?」
「土方さん、あんた本当に甲府で女学校を作る気け?」
「ああ。太田さんと一緒に今資金集めに奔走しているところだが・・それがお前らに何か関係あるのか?」
「関係あるに決まってるじゃん!」
どうやら自宅を訪ねてきたのは、女学校設立に反対している住民達のようだった。
「大体、女に学問なんざいらねぇ。」
「そうだ、女は字が読めんでも、家の事だけできればそれでいいんだ!」
「皆さん、落ち着いてください。」
「それにあんたの奥さん、東京の女学校に行っているんだってな?東京で役に立つ英語やテーブルマナーは、こんな田舎じゃ役に立てねぇさ!」
反対住民たちは口々にそう言うと、家から出て行った。
「千尋、もう出てきてもいいぞ。」
「はい・・」
千尋が押し入れから出ると、竈(かまど)の前で歳三が溜息を吐いていた。
「女学校設立に反対されている方が、いらっしゃるようですね?」
「ああ。お前ぇには、みっともねぇ姿を見せたくなくて、押し入れに隠れろって言ったんだが、無駄だったな・・」
「太田様のように、女学校設立に理解を示してくださる方だけではないことくらい、考えればわかります。」
千尋はそう言うと、歳三を抱き締めた。
「あまり一人で背負い込まないでください。わたくしは、あなたの妻なのですから、あなたの喜びも苦しみも分かち合いたいのです。」
「わかった・・」
「まだ家の掃除が終わっていませんので、手伝っていただけませんか?」
「ああ。」
午前中、千尋と歳三は家中を掃除した。
「いつも毎日気を付けて掃除をしているんだけどなぁ・・どうしても、見えない所に汚れが溜まるんだなぁ。」
「ええ、そうですね。それよりも歳三様、表の畑はどなたのものですか?」
「ああ、あの畑は俺の畑だ。俺はもともと百姓だから、野菜を育てるのは好きだ。」
「まぁ、そうですか。」
家の掃除を終え、千尋は歳三とともに畑仕事をした。
「こんなに暑い中、毎日畑仕事をされているのですか?」
「ああ。千尋、余り無理をするな。」
「わかりました。」
手拭いで額の汗を時折拭いながら、千尋は天を仰いだ。
「あら、千尋先生!」
「千代さん、お久しぶりです。」
「東京から帰ぇってきただけ?」
「ええ。千代さん、お元気そうで何よりです。」
「うちの子達、教室が休みになって毎日つまらんって言ってるだ。千尋先生と歳三先生に早く会いたいってそればっかり言って・・」
「まあ・・」
「そいじゃ先生、またね!」
「ええ、また。」
「そろそろ昼飯にするか?」
「ええ。」
竈の前で千尋がご飯を炊いていると、外から大きな物音がした。
「何だぁ?」
歳三が戸を開けると、畑の前に洋装姿の男が倒れていた。
「おいあんた、大丈夫か?」
男の服は泥に塗れ、歳三が頬を叩いても何の反応がなかった。
「千尋、こいつに水掛けろ!」
「はい。」
千尋は井戸から水を汲むと、それを男の顔に掛けた。
「ゲホ、ゲホッ!」
「どうやら気がついたようだな。」
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