「それで、君はどうしてこんな所に居るんだい?てっきり恋人と一緒に江戸に居るものだと思っていたけれど。」
「俺の私生活をあんたに話す義理なんてねぇだろう。」
「それはそうだね。ではまた会えることを願っているよ、土方君。」
「寝言は寝て言いやがれ。」
歳三は桂を睨みつけ、彼に背を向けて部屋から出て行った。
「相変わらず御し難い人だ・・まぁ、そこが彼の良い所なのだけれどね。」
桂は溜息を吐くと、冷蔵庫からウィスキーを取り出し、それをグラスに注いだ。
「おはようございます。」
「土方さん、昨夜桂さんのお部屋に居たでしょう?桂さんとお知り合いなの?」
「ねぇ、桂さんと昨夜何をしていたの?」
翌朝、歳三が出勤すると、同僚の仲居達が好奇心を剥き出しにしながら彼の元へと駆け寄って来た。
(壁に耳あり障子に目あり、か・・)
「あの、桂様って、有名な方なのですか?」
「あらぁ土方さん、知らないの!桂さんって言ったら、今を時めく若手企業家よぉ!」
「“一番結婚したい男”ナンバーワンに選ばれた事があるイケメンよ!」
「でも桂さんが人妻に興味があるなんて初耳だわぁ~!」
歳三を放っておいて、勝手に盛り上がる仲居達の姿を横目で見ながら、歳三が溜息を吐いた時、板場からの内線電話が鳴った。
「はい、土方です。」
『ちょっと、そろそろ朝食の時間だけど、まだ来ないの?』
「解りました、すぐ行きます!」
歳三は内線電話を切り、同僚達に朝食の時間が迫っている事を伝えた。
旅館の朝はいつも慌ただしい。
「あ~、もう忙しくて目が回りそうだわ!」
「何で修学旅行生が来るのかしら!」
宴会場で修学旅行生達の膳の用意をしながら同僚達が文句を言い合っていると、そこへ女将がやって来た。
「土方さん、ちょっと来てくれないかしら?」
「はい。」
宴会場から出た歳三は、女将に連れられて事務室へと入った。
「女将さん、お話とは何でしょうか?」
「土方さん、貴方わたし達に何か隠している事はない?」
「いきなりなんですか、女将さん?」
もしかして、東京で歳三が西城にした復讐がばれたのか―そう思いながら彼が女将の顔を見ると、彼女は一冊の週刊誌を歳三に見せた。
「今朝、こんな物がうちに届いたのよ。」
女将からその週刊誌を受け取った歳三は、そこに桂と自分がキスをしている写真と共に、『K社長、人妻仲居と熱愛発覚!?』という記事が載っている事に気づいた。
「女将さん、これは誤解です。」
「桂様の方も、この記事は出鱈目だとおっしゃっていたわ。でもさっき、マスコミがうちの旅館の前に殺到していて、事務所の電話もひっきりなしにかかって来て仕事にならないのよ。悪いんだけれど、土方さん暫く休んでくれないかしら?」
「解りました。」
歳三はそう言うと、女将に頭を下げて事務所から出て行った。
「土方さん、今日は終わるのが早いわね?」
「ええ。皆さんにはご迷惑をお掛けすることになりますが、暫くお休みさせて頂くことになりました。」
「あの週刊誌の所為でしょう?あんまり気にする事ないわよ。」
「では、わたしはこれで失礼いたします。」
歳三が支度部屋から出て旅館の裏口から社員寮の部屋に入ろうとした時、突然カメラの眩いフラッシュが彼を襲った。
「貴方が桂社長の恋人ですか!?」
「結婚されていると聞きましたが?」
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