桂が二人の為に用意してくれたホテルは、四条河原町の繁華街の中にあった。
「桂の野郎、こんな所に銅像なんか建てやがって・・」
「偶然ここに建っているだけですって。土方さん、そんな事でイライラしないでくださいよ。」
ホテルの正面玄関前にある桂の銅像を睨みつけた歳三を総司はそう言って宥めながら、ホテルの中へと入った。
「なぁ、この宿屋、まさかあいつが経営しているっていうんじゃねぇだろうな?」
「それはないですよ。」
フロントでチェックインを済ませた歳三は、総司と共に部屋に入ると、ベッドの端に腰掛けて溜息を吐いた。
「どうしたんですか、土方さん?溜息なんて吐いて?」
「桂の野郎が一体何を企んでいやがるのかが解らねぇ・・わざわざ俺達に宿を手配するなんて・・」
「疑り深いですね、土方さんは。こんな宿屋に泊まる機会はめったにないんですから、楽しみましょうよ。」
「ああ、そうだな。それよりも総司、昼飯の時間にはまだ早いから、近くを散歩してみるか?」
「そうですね。」
ホテルの部屋から出た歳三と総司は、昼食の時間までホテルの周辺を散策することにした。
「現代(こちら)の京の街は、何だか異国のようですね。」
「そうだな。総司、何か欲しい物はあるか?」
「そうですねぇ。何だか歩いているとお腹が空いてきちゃったので、お菓子が欲しいです。」
「ったく、てめぇはガキか。」
歳三は溜息を吐くと、総司と共に百貨店の中へと入った。
「熊さんのお菓子が欲しいです。」
「わかったよ。」
歳三は子供のようにはしゃぐ恋人の姿を呆れた顔で見ながら、熊のイラストが描かれている洋菓子店で菓子を何個か購入した。
「何だかこうして土方さんと並んで歩いていると、でぇとみたいですねぇ。」
「みたい、じゃなくて俺達がしているのはデートだろうが。」
三条大橋を渡りながら歳三が総司をそんな話をしていると、突然歳三は背後から強烈な視線を感じて振り向いた。
だが、そこには誰も居なかった。
「土方さん、どうしましたか?」
「いや、何でもねぇよ。」
(何だ、さっき誰かが俺の事を見ていたような気がしたが・・気の所為か。)
歳三はそう思いながら再び総司と共に三条大橋を渡り、祇園へと向かった。
「何だかこの通りを歩いていると、わたし達が居た頃と街並みが余り変わっていませんね。」
「そうだな。総司、そろそろ宿屋に戻るか?」
「ええ、そうですね。」
二人がホテルへと戻る為に横断歩道の前で信号待ちをしていると、歳三は突然誰かに背中を押された。
「土方さん、大丈夫ですか?」
「ああ。」
歳三は自分を見つめる野次馬の中に自分の背中を押した犯人を捜そうとしたが、犯人は何処にも居なかった。
「少し部屋で休みましょう。」
「わかった。」
(一体誰が、俺の事を狙っているんだ?)
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