あの舞台が功を奏したのかどうかはわからないが、舞台の後から何故か急に入隊希望者が新選組屯所の門を連日叩くようになり、その対応に千達は追われていた。
「入隊希望者が増えるのは嬉しいんですがねぇ、屯所が手狭になる一方ですね。
「そりゃ志方ねぇな。それにしても、天童の奴最近にやけに大人しくねぇか?」
「えぇ、そうですね。平田さんがお亡くなりになってからは特に・・」
天童と平田が長州側の間者であった事は、新選組内では周知の事実だった。
しかし、平田が謎の死を遂げた後、あれほどまでに歳三にまとわりつき、彼の周囲に探りを入れていた天童は、今は鳴りをひそめているかのように大人しくなっている。
「あいつが長州側の間者だったはねぇ。まぁ、最初から怪しいと思っていたんだが・・」
「副長は暫くあいつを泳がせておくように言っていたが、監察方は何か掴んでいるのか、千?」
「さぁ、僕は何も知りません。」
―良いですか、誰かに何かを聞かれても、何も言ってはなりません、わかりましたね。
(千尋さんは7あぁ言ったけれど、多分隊内(ここ)には平田さん以外に天童さんと繋がっている者が居るかもしれない・・)
「千、副長が呼んでいるぞ。」
「わかりました、すぐに行きます。」
厨房から出て、千が副長室へと向かっていると、彼は中庭で何かが光っている事に気づいた。
(何だろう?)
千が“それ”を拾い上げると、“それ”は拳銃だった。
指紋をつけないように、千は拳銃を懐紙で包むと、それを持って副長室に入った。
「土方さん、千です。」
「入れ。」
「失礼致します。」
「それは何だ?」
歳三はそう言うと、千が持っている拳銃を見た。
「中庭で見つけたんです。」
「こんな物騒なもんを落としたのは何処のどいつなんだ?」
「さぁ、わかりません。」
千はそう言うと、拳銃に弾が装填されていない事に気づいた。
「この銃、弾が入っていません。」
「そうか。それよりも千、例の件は誰にも話してねぇだろうなぁ?」
「はい、誰にも話していません。」
「そうか。この銃は俺が預かっておく。」
「わかりました。それにしても、天童さんが妙に静かですね・・」
「向こうから下手に動くなと言われているんだろう。なぁ千、土佐の坂本が言っていた事は本当か?」
「はい。アメリカで内戦が終わって、その内戦で使用済みになった銃が近々流れてくるそうです。」
「そうか。それにしても、この前お前を拉致したエゲレス軍の動きも気になるな・・」
「はい。」
千と歳三がそんな話をしていると、廊下の方から慌しい足音が数人分聞こえてきた。
「土方さん、大変だ!」
「どうした、お前ら!」
「天童が自害しました!」
「それは本当か?」
「はい・・」
千と歳三が天童と平田が使っていた部屋に入ると、そこは血の海だった。
これで、彼が長州側と繋がっている証拠が手に入らなくなってしまった。
「・・そうか、天童が・・」
「ご安心下さい、彼の遺書は処分致しました。」
「助かったよ、向こうにわたし達の動きがバレたら大変だからね。これからもよろしく頼むよ。」
「はい・・」
御陵衛士の屯所である高台寺の中にある一室で、伊東甲子太郎はそう言って一人の青年に微笑んだ。
「これから、どうなさるのですか、伊東さん?」
「さぁね。」
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